眠っているデザイン資産を宝に変える。NPO広報担当者のための賢い再利用ガイド
はじめに:眠っているデザイン資産の価値
NPOの広報活動において、限られた予算と時間の中で最大の効果を出すことは常に大きな課題です。新しい広報物を作るたびにゼロからデザインを考えるのは、コストも時間もかかります。しかし、皆さんの組織には、過去に制作したデザインデータや素材が蓄積されているはずです。これらはまさに「デザイン資産」であり、適切に活用することで、広報活動の効率を飛躍的に向上させ、コストを削減し、さらに組織のブランドイメージを一貫させる強力なツールとなります。
デザイン知識がなくても大丈夫です。この記事では、NPO広報担当者の皆様が、組織に眠るデザイン資産を発掘し、賢く再利用するための具体的なステップとアイデアをご紹介します。過去の制作物が、未来の広報活動における「宝」となるための実践的なガイドとしてお役立てください。
デザイン資産とは具体的に何か?
「デザイン資産」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、日々の広報活動で使われるビジュアルに関わるものすべてが含まれます。例えば、以下のようなものが挙げられます。
- ロゴとブランド要素: 正式なロゴデータ、ロゴの使用規定、組織のキーカラー、使用フォント、統一された写真トーンなど、ブランドアイデンティティを構成する基本要素。
- 広報物のデザインファイル: 過去に作成したチラシ、パンフレット、イベント告知物、報告書、ニュースレター、プレゼン資料などの元データ(Adobe Illustrator, Photoshop, InDesign, PowerPoint, Canvaなどのファイル)。
- デジタル素材: ウェブサイトのバナー画像、SNS投稿用のテンプレート、アイコンセット、メールマガジンのヘッダー画像など。
- 写真・イラスト素材: 組織の活動風景、人物、関連するイラストなど、広報目的で利用可能なストック素材やオリジナル素材。
- テンプレート: 定型的なお知らせや報告書、プレスリリースなどに使用するデザインテンプレート。
これらの資産が、ファイルサーバーの奥深くに眠っていたり、担当者個人のパソコンに散らばっていたりしないでしょうか。まずは、組織内にどのようなデザイン資産が存在するのかを把握することから始めましょう。
デザイン資産を「使える状態」にするための整理と管理
デザイン資産を再利用するためには、まずそれらを一元的に管理し、必要な時に誰もが簡単にアクセスできる状態にすることが重要です。デザイン知識がない広報担当者でも取り組みやすい整理・管理のステップをご紹介します。
- 資産の収集と棚卸し: 組織内の共有フォルダ、個人のPC、過去の担当者からの引き継ぎデータなどを探し、散在しているデザイン資産を一か所に集めます。どんな種類の資産があるか、リスト化してみましょう。
- ファイル形式の確認と整理: 集めたファイルがどのような形式かを確認します(例: .ai, .psd, .indd, .pdf, .jpeg, .png, .pptx, .canva)。編集可能な形式(.ai, .psd, .indd, Canvaなど)と、最終出力形式(.pdf, .jpeg, .pngなど)を区別して整理すると、後々の再利用がしやすくなります。
- 分かりやすい命名規則の導入: ファイル名を見ただけで内容がある程度把握できるよう、統一された命名規則を決めます(例: 「[制作年][広報物種類][内容]_[バージョン].形式」 → 「2023_leaflet_event-A_v3.ai」)。
- 体系的なフォルダ分け: プロジェクト別、広報物種類別、年別など、組織の活動に合わせて論理的なフォルダ構造を作成し、収集した資産を分類して格納します。
- 保管場所の検討: クラウドストレージ(Google Drive, Dropbox, Boxなど)や組織内の共有サーバーなど、複数の関係者がアクセスしやすい安全な場所に保管します。無料または低コストで利用できるサービスも多くあります。
- 利用ガイドラインの作成(簡易版でも可): 特にロゴや基本カラー、フォントなど、ブランドに関わる重要な資産については、簡単にでも「どのような場合に」「どのように」使えるかをまとめたガイドラインを作成しておくと、組織全体でのデザインの一貫性が保たれます。デザイナーに作成してもらったブランドガイドラインがあれば、それを共有します。
こうした整理と管理の仕組みを一度構築しておけば、新しい広報物を作成する際に、必要なデザイン要素や過去の参考事例をすぐに見つけられるようになります。
具体的な再利用のアイデアと実践例
整理されたデザイン資産は、様々な形で再利用できます。具体的なアイデアを見てみましょう。
- テンプレート活用で迅速制作: 過去のイベント告知チラシのデザインデータがあれば、それを基に新しいイベントの告知チラシを作成します。日付や内容、写真を差し替えるだけで、ゼロから作るよりはるかに短い時間でプロフェッショナルなデザインが完成します。ニュースレターや活動報告書のテンプレートも同様です。
- 要素の転用:
- チラシやパンフレットで使用した活動風景の写真やイラストを、SNS投稿やウェブサイトの更新情報に活用します。
- ウェブサイトで使用しているアイコンやバナーのデザインテイストを、印刷物やプレゼン資料にも統一して使用します。
- 過去の寄付募集資料のデザイン要素(配色、フォントの使い方、イラストなど)を、新しい寄付キャンペーンに引き継いで使用することで、親しみやすさや信頼感を維持します。
- デザインのアップデート: 古くなったデザイン資産も、すべてが無駄になるわけではありません。例えば、数年前に作成したイベントロゴやイラストでも、少し色合いを変えたり、他の要素と組み合わせたりすることで、新しいキャンペーンに使用できる場合があります。デザイナーに依頼する際も、「この過去の資産を基に、リニューアルしたい」と具体的に伝えられます。
- 素材ライブラリの活用: 活動写真やイラスト素材が集約されていれば、ブログ記事やSNS投稿、プレゼン資料作成時に、毎回素材を探す手間が省けます。写真の解像度や利用条件(写っている人の許可など)も一緒に管理しておくとより安全です。
例えば、あるNPOが過去のキャンペーンで使用した「共感を呼ぶイラスト」のデータが残っていたとします。新しい啓発活動のポスターやSNS画像を作成する際に、このイラストをサイズや色合いを調整して使用することで、一からイラストレーターに依頼するコストや時間をかけずに、活動のテーマを効果的に伝えるビジュアルを作成できます。これは、デザイン資産の「要素の転用」の好例です。
再利用する上での注意点
デザイン資産の再利用は非常に有効ですが、いくつか注意すべき点があります。
- 情報の正確性と最新性: 再利用するデザインに含まれる日付、連絡先、イベント内容、金額、データ(グラフなど)が最新の情報と合っているかを必ず確認し、必要に応じて修正します。
- デザインの一貫性: 再利用する際に、組織全体のブランドイメージや、同じ媒体内の他のデザインとの間に大きな乖離がないかを確認します。バラバラな印象を与えないよう、基本的なトーン&マナーは維持しましょう。
- 著作権と利用規約: 外部から取得した写真、イラスト、フォントなどの素材が含まれている場合、それらの著作権や利用規約を再確認してください。過去の用途では問題なくても、新しい用途(特に商用利用や改変など)で利用規約に違反しないか確認が必要です。デザイナーに制作を依頼した場合も、著作権が組織に譲渡されているか、二次利用や改変の許諾があるかを確認しておくと安心です。
- ファイル形式の互換性: 使用したいデザイン資産のファイル形式が、現在使用しているソフトウェアで開けるか、編集できるかを確認します。古いバージョンのソフトウェアで作成されたファイルは、開けない、または正常に表示されない場合があります。
結論:デザイン資産は未来への投資
組織に蓄積されたデザイン資産は、単なる過去の制作物ではありません。それは、時間、予算、そしてデザイナーや関係者の労力が注がれた、組織にとって貴重な財産です。これを整理し、賢く再利用することで、日々の広報活動の効率を高め、コストを削減し、組織のメッセージをより一貫性を持って伝えることが可能になります。
デザイン資産の整理や管理は、最初は少し手間がかかるかもしれません。しかし、一度仕組みを作ってしまえば、その後の広報活動が格段にスムーズになります。まずは、手の届く範囲にあるデザインファイルから少しずつ整理を始めてみてはいかがでしょうか。過去のデザイン資産を未来の活動に活かし、より多くの人に組織の活動やメッセージを効果的に届けていきましょう。