NPO広報担当者のための、デザインを継続的に良くする「評価→改善」サイクル実践論
ソーシャルデザインプロジェクトにおいて、活動内容や団体の魅力を伝えるためにデザインは強力なツールとなります。チラシ、ウェブサイト、SNS投稿、報告書など、様々な媒体でデザインを活用されていることと思います。しかし、一度デザイン物を作成した後、「このデザインは意図した効果を上げているのだろうか」「もっと良くするにはどうすれば良いのだろうか」と立ち止まることはないでしょうか。
デザインは単に見た目を整えるだけでなく、人々の理解を深めたり、共感を呼んだり、具体的な行動を促したりするためのコミュニケーション手段です。そのため、作成したデザインが目的を達成しているのかを検証し、必要に応じて改善していく「評価→改善」のサイクルを回すことが非常に重要になります。
このサイクルを実践することで、限られたリソースでもデザインの効果を最大化し、団体の活動をより力強く推進していくことが可能になります。この記事では、デザインの知識がないNPO広報担当者の方でも実践できる、デザインの「評価」方法と、その結果を次の「改善」にどう繋げるかについて解説します。
なぜデザインの「評価→改善」サイクルが必要なのか
ソーシャルデザインの文脈において、デザインは社会課題の解決や共感の輪を広げるための手段です。したがって、デザインの目的は「美しいものを作る」こと以上に、「メッセージを正しく伝える」「対象者の心を動かす」「具体的なアクションを引き出す」といった点に置かれます。
この目的が達成されているかどうかを知るためには、作ったデザインが実際にどう受け止められ、どのような影響を与えているのかを測定し、「評価」する必要があります。評価なくしては、そのデザインが良いのか悪いのか、どこに改善の余地があるのかが不明なままとなり、効果的な情報発信を持続することは難しくなります。
また、NPOの活動は常に変化し、ターゲット層のニーズも変わっていきます。一度作ったデザインが永久に最適であるとは限りません。活動の進展や外部環境の変化に合わせてデザインを見直し、改善していく柔軟な姿勢が求められます。
さらに、デザインにかけた時間や費用といったリソースが、活動の成果にどのようにつながっているのかを明確にすることは、資金提供者や協力者、そして組織内の理解を得る上でも重要です。評価を通じてデザインの貢献度を示すことで、今後のデザイン投資の正当性を示す材料にもなります。
デザインの「評価」は何を、どう測るか
デザインの評価を始めるにあたって、まずは「何をもって成功とするか」を明確にすることが第一歩です。これは、デザインを作成する際に設定した「目的」と直結します。
例えば、
- ウェブサイトのトップページをリニューアルした目的が「団体の活動内容への理解を深める」ことであれば、ウェブサイトの滞在時間や活動紹介ページへの遷移率などが評価指標となります。
- イベント告知チラシやSNS投稿の目的が「参加者を募る」ことであれば、そこから発生したイベント申込数や告知投稿のクリック率・シェア数が重要な指標です。
- 寄付募集LP(ランディングページ)の目的が「寄付を募る」ことであれば、LP訪問者数に対する寄付者数の割合(コンバージョン率)が最も直接的な指標となります。
- 活動報告書の目的が「支援者の共感を醸成し、継続的な応援に繋げる」ことであれば、報告書を読んだ支援者からの感想(定性データ)や、その後の問い合わせ数・継続寄付の増加率などが参考になります。
このように、デザインの目的に応じて、測定すべき指標は異なります。これらの指標には、主に「定量データ」と「定性データ」があります。
定量データ(数値で測れるもの)
- ウェブサイト関連:
- ウェブサイトのアクセス数(PV: ページビュー数)
- 特定のページへの訪問者数
- 滞在時間
- 直帰率(そのページだけを見てすぐに離脱する割合)
- 特定のボタンのクリック数
- 特定のリンクからのイベント申込数や資料請求数
- Google Analyticsなどのアクセス解析ツールで測定できます。
- SNS関連:
- 投稿のインプレッション数(表示回数)
- エンゲージメント率(「いいね」やコメント、シェアなどの反応率)
- 投稿からのリンククリック数
- 各プラットフォームのインサイト機能で確認できます。
- メール・広報物関連:
- メールマガジンの開封率、クリック率
- チラシなどに掲載したQRコードの読み取り数
- 印刷物の配布数に対する反響数(問い合わせ、申込など)
- アンケートの回答数や集計結果(数値設問)
- 寄付システムからの寄付額、件数
定性データ(数値化しにくい、声や感想など)
- デザインを見た人からのコメントや感想(SNS、メール、対面での声)
- アンケートの自由記述欄の意見
- フォーカスグループインタビューやヒアリングでの反応
- イベントなどで実際にデザイン物を見せた際の参加者の表情や反応
これらのデータは、単に集計するだけでなく、「なぜそのような結果になったのか」を読み解く視点が重要です。例えば、ウェブサイトの直帰率が高いなら、デザインがターゲット層に響いていないのかもしれません。チラシからの反応が少ないなら、メッセージが不明確か、デザインが目を引かないのかもしれません。
評価結果を「改善」に繋げる方法
評価で得られたデータやフィードバックは、次にデザインを改善するための貴重な情報源です。これらの情報を分析し、具体的な改善アクションへと繋げていきましょう。
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評価結果の分析と課題の特定: 集めた定量・定性データを総合的に見て、当初の目的とのずれや、デザインの機能不全が起きている箇所を特定します。
- 「このデザイン、多くの人に見られている(インプレッション◎)けれど、クリックや反応が少ない(エンゲージメント△)。」→ 見た人の興味を引くための工夫が必要かも。
- 「ウェブサイトからの問い合わせが少ない。特にこのページからの離脱が多いな。」→ そのページのコンテンツ構成やデザイン、導線に課題があるかも。
- 「報告書を読んだ方から『内容は良いけど、どこに何が書いてあるか分かりにくかった』という声があった。」→ レイアウトや見出しの付け方、図解の配置などに改善の余地があるかも。
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改善策の検討: 特定された課題に対し、デザインの力でどう解決できるかを考えます。非デザイナーの方でもできる簡単なことから、専門家(デザイナー)に相談すべきことまで、様々なレベルの改善策があります。
- 自身で可能な改善例(簡単なツールや既存素材で):
- SNS投稿画像のテキスト配置やフォントサイズの調整
- Canvaなどのツールで作成した資料の色や写真の差し替え
- ウェブサイトの簡単な文言修正や、リンクの貼り方変更
- 既存のテンプレートを使った新しいバリエーション作成
- デザイナーに依頼すべき改善例:
- ウェブサイトの大幅なレイアウト変更や機能追加
- チラシ全体のデザインコンセプトの見直し
- ロゴやキービジュアルなど、団体の印象に関わる部分の修正
- 新しい媒体(例:動画、インフォグラフィック)のデザイン制作
- 自身で可能な改善例(簡単なツールや既存素材で):
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改善の実行と効果測定: 検討した改善策の中で、リソース(予算、時間、人手)を考慮して優先順位をつけ、実行します。小さな改善でも構いません。重要なのは、改善を実行したら、再びその効果を測定することです。これにより、「改善策が実際に効果があったか」を検証し、次の改善へと繋げるサイクルが生まれます。
デザイナーとの連携とフィードバックの活用
外部のデザイナーにデザインを依頼している場合、評価で得られた情報をどう共有し、改善を共に行うかが重要になります。評価結果をデザイナーへのフィードバックとして活用することで、より効果的な協働が可能になります。
評価で得られたデータや意見を伝える際は、抽象的な感想ではなく、できるだけ具体的な情報として整理しましょう。
- NG例: 「このチラシ、なんとなく反応が悪いです。」
- OK例: 「このチラシをイベント会場で〇〇枚配布しましたが、問い合わせに繋がったのは△件でした。以前のチラシ(反応率□件)より効果が低いようです。特に、お問い合わせ方法を示す部分が見落とされている、という声が参加者からありました。」
このように、具体的な数値(定量データ)と、それが示唆する可能性のある課題(定性データや推測)を合わせて伝えることで、デザイナーも問題点を把握しやすくなります。さらに、「お問い合わせ方法をもっと分かりやすくしたい」といった具体的な改善の方向性を伝えることも有効です。
デザイナーはデザインのプロですが、活動の現場で実際にデザインがどう使われ、どう受け止められているかを知るのは広報担当者であるあなたです。評価結果は、デザイナーがより良いデザインを提案するための重要なインプットとなります。フィードバックを通じて、デザインの課題を共有し、共に解決策を見つけるパートナーシップを築いてください。
「評価→改善」サイクルを組織に根付かせるためのヒント
デザインの「評価→改善」サイクルを単発で終わらせず、団体の活動の一部として継続的に行っていくためには、組織内での取り組みも重要です。
- 定期的な振り返りの機会を持つ: 四半期ごと、半期ごとなど、デザインの成果を振り返る会議や報告の場を設けることで、サイクルを意識的に回すことができます。
- 評価結果を共有する: 担当者だけでなく、チームメンバーや関係者にも評価結果とそこから見えた課題、検討している改善策を共有しましょう。デザインの重要性への理解が深まります。
- 小さな成功を共有する: 評価→改善の結果、効果が上がった事例があれば、積極的に共有し、デザイン活用の成功体験を組織全体で積み重ねることが、デザインへのモチベーションを高めます。
- 改善のためのリソースを確保する: 小さな改善であっても、時間や予算が必要な場合があります。計画的にリソースを確保できるよう、日頃からデザインの効果を示すデータを集めておくことが役立ちます。
結論
デザインは、一度完成したら終わり、というものではありません。ソーシャルデザインプロジェクトにおいては特に、活動の進展や社会の変化に合わせて、デザインも共に「育てる」視点が不可欠です。
デザインの「評価→改善」サイクルは、この「育てる」プロセスの中核をなします。デザインの効果を冷静に測定し、そこから得られる示唆を真摯に受け止め、地道に改善を重ねていくこと。この継続的な取り組みこそが、デザインを真に活動の力とし、社会的な目的達成への貢献度を高める鍵となります。
デザイン知識がないことに不安を感じる必要はありません。評価や改善のプロセスは、高度なデザインスキル以上に、現場での観察眼、データへの関心、そして関係者とのコミュニケーション能力が重要になります。まずは、手元にあるデザイン物について、「これは誰に、何を伝えるためのデザインだったか」「それはどの程度達成できたか」といった問いを立て、小さな評価から始めてみてはいかがでしょうか。その一歩が、デザインを通じた情報発信の効果を確実に高め、より良い活動へと繋がっていくはずです。