NPO広報担当者のための、予算内でデザインを効果的にリニューアル・改善する方法
ソーシャルデザインプロジェクトにおいて、グラフィックデザインは活動の目的を伝え、共感を呼び、行動を促す重要なツールです。しかし、一度制作したデザインも、時間の経過や活動内容の変化に伴い、役割を果たしきれなくなることがあります。そのような時に検討するのが、デザインのリニューアルや改善です。
NPO法人の広報担当者の方々からは、「既存のデザインが古く見えてしまう」「活動内容が変わったのに、デザインが追いついていない」「でも、デザインを一新する予算はないし、どこから手をつけていいか分からない」といった声をよく耳にします。
この記事では、デザインに関する専門知識がないNPO広報担当者の方々に向けて、限られた予算の中でも既存のデザインを効果的にリニューアル・改善していくための実践的な方法と考え方をご紹介します。
なぜデザインのリニューアル・改善が必要なのか
既存のデザインが古くなったり、活動内容と合わなくなったりすると、以下のような課題が生じることがあります。
- メッセージのズレ: 当初想定していなかった新しいターゲット層にメッセージが伝わりにくくなる。
- 信頼性の低下: デザインの古さが、団体の信頼性や活動の新しさを損ねてしまう。
- 効果の減少: チラシを見ても問合せが少ない、ウェブサイトで目的の行動(寄付や問合せなど)に繋がりにくい。
- 運用効率の低下: 既存のデザインデータが使いにくく、日々の更新や新しい広報物作成に手間がかかる。
デザインのリニューアルや改善は、これらの課題を解決し、団体のメッセージをより的確に、より多くの人に届けるために必要な投資となり得ます。しかし、「リニューアル」と聞くと、大掛かりなプロジェクトや多額の費用を想像しがちです。
ご安心ください。デザインのリニューアル・改善は、必ずしも全てを一新することだけを指すわけではありません。部分的な修正や、小さな積み重ねでも大きな効果を生むことがあります。大切なのは、現在のデザインの課題を正しく理解し、予算やリソースに合わせて最適なアプローチを選択することです。
既存デザインの課題を特定するセルフチェックリスト
リニューアル・改善を検討する第一歩は、現在のデザインが抱える課題を具体的に洗い出すことです。デザインに関する専門知識がなくても、以下のチェックポイントで自己診断が可能です。
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「伝わる」のチェック:
- 団体のミッションや活動内容が、デザインを見ただけでおおよそ理解できるか。
- 伝えたい最も重要な情報(例: イベント日時、寄付方法、問合せ先)が分かりやすく配置されているか。
- ターゲットとする人々が、デザインを見て「自分に関係がある」と感じられるか。
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「見やすい」のチェック:
- 文字サイズ、フォント、行間が適切で、長い文章でも苦痛なく読めるか。
- 写真やイラストなどの画像は鮮明で、内容と合っているか。
- 情報が整理されており、どこに何が書いてあるか迷わないか(レイアウトの観点)。
- ウェブサイトの場合、スマートフォンで見た時に崩れていないか。
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「団体のイメージとの一致」のチェック:
- 団体の理念や雰囲気に、デザインの色使いや写真のトーン、全体のスタイルが合っているか。
- ロゴマークは現在の活動にふさわしいイメージか。
- ウェブサイト、チラシ、SNSなど、複数の広報物間でデザインに統一感があるか。
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「使いやすさ」のチェック:
- 広報担当者自身が、既存のデザインデータ(例: チラシの元データ)を使って新しい情報に更新しやすいか。
- デザイナーに依頼する際に、既存のデザイン資産(ロゴデータ、写真素材など)が整理されていて共有しやすいか。
これらのチェックを通じて、「文字が小さすぎる」「写真が暗い」「使っている色が古く感じる」「ロゴはあるけど、どう使えばいいかルールがない」といった具体的な課題が見えてくるはずです。
予算内で進めるリニューアル・改善の考え方
全ての広報物を一度に作り直す必要はありません。予算が限られている場合は、効果を最大化するための優先順位付けが重要です。
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最も影響力の大きいツールから:
- 最も多くの人が目にする広報物(例: ウェブサイトのトップページ、よく配布するチラシ、SNSの定型投稿フォーマット)から改善を検討します。
- 改善によって、問合せ増加や寄付増加など、具体的な成果に繋がりやすいツールを優先します。
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「小さな改善」から始める:
- デザイン全体のリニューアルではなく、特定の要素だけを改善します。
- 例: ウェブサイトの色調を調整する、古い写真素材を新しいものに差し替える、よく使うチラシのレイアウトだけを見直す。
- フォントを変更したり、文字サイズを調整したりするだけでも、見やすさは大きく向上します。
- 新しいデザインのテンプレート(Canvaなどで作成)を作成し、日々の発信に活用することから始めるのも有効です。
- デザイン全体のリニューアルではなく、特定の要素だけを改善します。
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既存のデザイン資産を最大限に活用する:
- まだ使えるロゴや色、写真などはそのまま活用することを検討します。
- 過去のデザインデータ(もしあれば)を整理し、再利用できるパーツがないか確認します。これは、デザインのプロに依頼する際にも、ゼロからではなく既存資産を基に進められるため、費用を抑えることに繋がります。
具体的な実践方法
予算と課題に応じて、様々なアプローチが考えられます。
内製でできること
デザインツールに関する高度な知識がなくても、工夫次第でできることはたくさんあります。
- テキストと写真の更新: 既存のテンプレートやデータがある場合、内容(文字情報や写真)を最新の状態に差し替えるだけでも、情報の鮮度が保たれ、印象が良くなります。写真の質が低い場合は、スマートフォンでもきれいに撮影できる方法を学んだり、無料・安価なストックフォトサイトを活用したりするのも良いでしょう。
- 無料・安価なデザインツールの活用: Canvaのようなツールを使えば、既存のテンプレートを活用したり、シンプルなデザインを作成したりできます。既存デザインの課題を踏まえ、「次回からはこのテンプレートを使おう」といった運用ルールを設けることも改善の一歩です。
- 情報の整理と構造の見直し: レイアウトそのものを大きく変えなくても、伝えたい情報の優先順位を見直し、見出しを適切に使ったり、箇条書きを活用したりするだけで、格段に分かりやすくなります。これはデザインというより情報設計の考え方ですが、デザインの効果を大きく左右します。
外部に依頼する場合
専門的なスキルが必要な場合や、内製では対応しきれない場合は、プロのデザイナーに依頼することを検討します。予算を抑えるためには、依頼範囲を明確にすることが非常に重要です。
- 依頼範囲の特定: 全てのデザインを依頼するのではなく、「ウェブサイトの特定のページだけ」「チラシの表面だけ」「新しいテンプレート作成だけ」のように、最小限かつ最も効果的な範囲に絞って依頼します。
- 既存資産の共有: 依頼するデザイナーに、既存のロゴデータ、カラーガイド、使用しているフォントなどのデザイン資産を可能な限り共有します。これにより、ゼロから作るのではなく、既存のものを活かした提案を受けることができるため、費用を抑えられる可能性があります。
- 見積もりと交渉: 複数のデザイナーから見積もりを取り、内容を比較検討します。「この部分の作業を自分たちで行うので費用を抑えられないか」といった交渉も可能な場合があります。見積もりを取る際は、具体的な成果物(例: チラシの片面デザインデータ)と、修正回数、納品形式などを明確に伝えることが重要です。
デザイナーとの協働の進め方
デザインのリニューアル・改善を依頼する際も、新規制作と同様にデザイナーとの効果的なコミュニケーションが鍵となります。
- 課題と目的の共有: なぜリニューアル・改善が必要なのか、現在のデザインの具体的な課題は何か、改善によってどのような状態を目指したいのか(例: 問合せを増やしたい、団体の信頼性を高めたい)を明確に伝えます。セルフチェックリストで整理した内容を共有するのも良い方法です。
- 既存デザインの共有と説明: 改善したい既存のデザインデータや現物を見せながら、具体的に「この部分が見にくい」「この情報が伝わりにくい」といった課題点を共有します。
- 予算の上限を伝える: 可能な範囲で、予算の上限や希望する費用感を正直に伝えます。デザイナーはその予算内で最適な提案をしてくれる可能性が高まります。
- フィードバック: 提案されたデザインを見て、漠然と「好き/嫌い」で判断するのではなく、課題解決に繋がっているか、目的に合致しているか、ターゲットに伝わるかを基準に具体的にフィードバックを行います。例えば、「この色は団体の落ち着いた雰囲気に合わない」「この写真では活動内容が伝わりにくい」のように、理由を添えて伝えるとデザイナーは意図を理解しやすくなります。
事例に学ぶ:デザイン改善がもたらす効果(架空事例)
例えば、あるNPOがウェブサイトの寄付募集ページの「デザイン改善」に取り組んだ事例を考えてみましょう。
既存のページは、テキスト中心で情報が整理されておらず、寄付への導線(寄付ボタン)が目立たないという課題がありました。団体のリソースが限られていたため、ウェブサイト全体のリニューアルではなく、この寄付募集ページに特化してデザインを改善することにしました。
外部のデザイナーには、「ページの情報を整理し、寄付へのハードルを下げ、より多くの寄付に繋がるデザイン」を、既存サイトのデザインテイストを活かしつつ行うことを依頼しました。費用を抑えるため、デザインデータの作成のみを依頼し、サイトへの実装はNPO側で行うこととしました。
デザイナーは、まず情報の優先順位を整理し、寄付の必要性、使い道、方法を分かりやすくレイアウトしました。写真も活動風景が伝わるものに変更し、寄付ボタンは配色と配置を工夫して目立つようにしました。
このデザイン改善の結果、ページの滞在時間が伸び、寄付ボタンのクリック率が向上し、最終的に寄付額が増加するという具体的な成果に繋がりました。全体リニューアルよりも遥かに少ない予算で、明確な成果を出すことができたのです。
この事例からわかるように、課題を特定し、目的を明確に設定し、範囲を絞ってデザイン改善に取り組むことは、限られた予算の中でも大きな効果を生む可能性があります。
リニューアル・改善後の継続的な運用
デザインを改善した後は、その効果を測定し、今後の活動に活かすことが大切です。
- 効果測定: ウェブサイトであれば、アクセス解析ツールを使ってページの閲覧数、滞在時間、目標とする行動(寄付、問合せなど)への転換率などを確認します。チラシであれば、配布数と問合せ数の変化などを比較します。改善が効果に繋がったかを検証します。
- デザイン資産の管理: 新しく作成・改善したデザインデータや使用した素材は、後々のために整理して保管しておきます。使用ルールや簡単なガイドラインを作成しておくと、今後の広報担当者が引き継いだり、他のメンバーが活用したりする際に役立ちます。
- 継続的な見直し: 社会状況や団体の活動は常に変化します。一度改善したデザインも、定期的に効果測定やセルフチェックを行い、必要に応じて小さな修正を加えていくことが、デザインを常に「生きたツール」として活用するために重要です。
まとめ
NPO広報担当者の方にとって、デザインのリニューアルや改善は、ハードルが高く感じられるかもしれません。しかし、デザインは単なる見た目の問題ではなく、メッセージ伝達の精度を高め、団体の活動を前進させるための強力な手段です。
全ての広報物を一新するのではなく、現在のデザインの課題を冷静に見つめ、最も効果的な部分に焦点を当てて改善を進めることで、限られた予算の中でも大きな成果を出すことが可能です。内製でできることから始めたり、外部のプロに依頼する際も範囲を絞ったり、デザイナーと密に連携したりすることで、着実にデザインを「伝わる」ものに変えていくことができます。
デザインの改善は一度行えば終わりではなく、団体の成長と共に続くプロセスです。小さな一歩からでも良いので、ぜひあなたの団体のデザインを見直し、活動をさらに効果的に伝えていくための一歩を踏み出してみてください。