社会とデザインの実践論

数字を味方に。NPO広報のための伝わるグラフ・図解作成術

Tags: データビジュアライゼーション, グラフ, 図解, NPO広報, 情報デザイン

NPOの広報活動において、活動実績や社会課題の現状を示すためにデータや数字を用いる機会は少なくありません。例えば、支援者数、イベント参加者数、集まった寄付金の額、解決を目指す社会課題の統計データなどです。これらの数字は、団体の信頼性を示す重要な要素となります。しかし、数字を羅列するだけでは、読み手にその重要性や意味が十分に伝わらないことがあります。そこで重要になるのが、データビジュアライゼーション、すなわちグラフや図解を用いて数字を視覚的に表現する技術です。

この技術を活用することで、複雑なデータも直感的に理解しやすくなり、活動報告の説得力が増したり、共感を呼びやすくなったりします。本記事では、デザインの専門知識がないNPO広報担当者の方々に向けて、数字を味方につけ、より効果的に情報を伝えるためのグラフや図解の作成術について解説します。

なぜNPO広報にデータビジュアライゼーションが必要なのか

数字やデータは客観的な事実を示すため、団体の活動報告や社会課題の説明において高い信頼性を持ちます。しかし、専門家でない限り、たくさんの数字を見ただけでは内容を理解し、そこから示唆を得ることは容易ではありません。

データビジュアライゼーションは、この「理解の壁」を取り払う強力な手段です。適切にデザインされたグラフや図解は、データの傾向や比較、相関関係などを一目で把握できるようにします。これにより、読み手は難しい数字と向き合うことなく、データの背後にあるストーリーやメッセージをスムーズに受け取ることができます。

NPO広報においては、以下の点で特に効果を発揮します。

NPOでよく使うデータの種類と適切なグラフ・図解の選び方

NPOの広報でよく扱うデータにはいくつかの種類があり、それぞれに適したグラフや図解の形式があります。

1. 推移を示すデータ(例: 寄付金の年間推移、支援者数の増加、事業対象者の変化)

時間の経過に伴う変化を見せたい場合は、「折れ線グラフ」や「棒グラフ」が適しています。

2. 比較を示すデータ(例: 事業Aと事業Bの成果比較、年代別の支援者割合、地域別の課題発生率)

項目間の数量を比較したい場合は、「棒グラフ」や「円グラフ(全体に対する割合の場合)」が適しています。

3. 構成比を示すデータ(例: 収入源の内訳、ボランティアの属性割合、支出の内訳)

全体に占める各要素の割合を示したい場合は、「円グラフ」や「積み上げ棒グラフ」が適しています。

4. 位置関係やプロセスを示すデータ(例: 団体の活動拠点、事業の実施プロセス、課題発生から解決までのフロー)

地理的な位置や物事の順序、関係性を示したい場合は、「地図」や「フロー図」が適しています。

デザイン知識がなくてもできる、伝わるグラフ・図解作成のコツ

デザインの専門家でなくても、いくつかの基本的なコツを押さえるだけで、格段に分かりやすく、伝わるグラフや図解を作成できます。

コツ1: シンプルさを心がける

コツ2: 色を効果的に使う

コツ3: 伝えたいメッセージを明確にする

コツ4: 使うツールを理解する

デザイン専門ツールを使わなくても、日常使っているソフトウェアで十分なグラフ作成が可能です。

ケーススタディ:活動報告書でのグラフ活用による変化

あるNPOでは、年次の活動報告書に活動実績や財務状況を羅列して掲載していました。真面目な内容ではあったものの、読み手からの反応は薄く、特に若い世代やデザインに関心のある層には退屈に感じられていました。

そこで、広報担当者はデザインの専門知識はなかったものの、基本的なデータビジュアライゼーションの原則を学び、報告書の一部の数字をグラフ化することに挑戦しました。

これらのグラフは、Excelで作成したものを最低限の色調整とタイトル工夫を施しただけのシンプルなものでしたが、報告書の読者からは「数字の意味が理解しやすくなった」「活動のインパクトが伝わってきた」といった好意的なフィードバックが増えました。視覚的な要素が増えたことで、報告書を手に取るハードルが下がり、ウェブサイトでの公開後もより多くのページビューを獲得する結果に繋がりました。

この事例は、高度なデザインスキルがなくても、データビジュアライゼーションの基本的な考え方を活用するだけで、情報伝達の効果を大きく高められることを示しています。

デザイナーに依頼する場合の視点

自身での作成が難しい複雑なデータや、ブランディングと高度に連携したデザインが必要な場合は、プロのデザイナーに依頼することを検討しましょう。その際も、本記事で解説したような「どのデータを、誰に、どう伝えたいのか」という目的と、どのようなグラフ形式がデータに適しているのかという基本的な知識があると、デザイナーとのコミュニケーションが円滑に進み、より質の高い成果を得やすくなります。

依頼時には、生データと共に、グラフ化したい目的、想定する読者、掲載媒体(Webサイト、報告書、SNSなど)、そして「このグラフで最も伝えたいメッセージは何か」を明確に伝えるように心がけてください。

まとめ

NPOの広報担当者にとって、データビジュアライゼーションは、活動の信頼性を高め、共感を呼び、情報を効果的に伝えるための強力なツールです。デザインの専門知識がなくても、シンプルな原則に従い、身近なツールを活用することで、伝わるグラフや図解を作成することは十分に可能です。

まずは、ご自身の団体が持っているデータを見直し、「この数字で何を伝えたいか」を考えてみてください。そして、本記事で紹介したコツを参考に、一つずつグラフや図解の作成に取り組んでみましょう。視覚的なコミュニケーションの力を借りて、あなたの団体の活動をより多くの人に、より深く届けていきましょう。