デザインがうまくいかないのはなぜ? NPO広報担当者のための失敗原因と改善策
はじめに
ソーシャルデザインプロジェクトにおいて、デザインは組織の活動を多くの人々に伝え、共感を生み、具体的な行動を促すための重要なツールです。しかし、デザインに多くの時間や労力をかけたにも関わらず、「思ったほど効果が出ない」「メッセージがうまく伝わらない」といった経験をお持ちのNPO広報担当者の方もいらっしゃるかもしれません。
デザインは単に見た目を整えることだけではなく、目的達成のための戦略的なコミュニケーション手段です。そのため、デザインが「うまくいかない」背景には、いくつかの共通する原因が存在します。これらの原因を理解し、適切な対策を講じることは、限られたリソースの中でデザインの効果を最大化するために不可欠です。
この記事では、NPOの活動においてデザインが期待通りの効果を発揮しない場合に考えられる主な原因を分析し、それぞれの原因に対する具体的な改善策を解説します。自身のデザインプロジェクトを振り返り、より効果的なデザイン実践に向けたヒントを見つけていただければ幸いです。
なぜデザインは「うまくいかない」と感じられるのか
デザインが「うまくいかない」と感じる状況は様々です。例えば、制作したチラシを配布しても反応がない、ウェブサイトからの問い合わせが増えない、SNSの投稿が全くエンゲージメントを得られない、といったケースが挙げられます。これらの状況は、デザインそのものの質だけではなく、デザインに至るプロセスや活用方法に起因していることが多くあります。
デザインの失敗は、単に「センスがない」「技術が足りない」といった表面的な問題だけではありません。より深く、デザインが本来果たすべき「誰に、何を、どう伝えるか」というコミュニケーションの設計や、プロジェクト全体の進め方に関わる根本的な課題が隠れていることがあります。
次に、NPOの広報活動においてデザインが期待した成果に繋がらない主な原因を具体的に見ていきましょう。
デザインがうまくいかない主な原因と改善策
デザインの成果が出ない場合に考えられるいくつかの共通原因と、それに対する実践的な改善策をご紹介します。
原因1:目的・課題が不明確である
デザインを依頼したり、内製で制作に取りかかったりする前に、「なぜ今、このデザインが必要なのか」「このデザインで何を達成したいのか」という目的や、解決したい具体的な課題が曖昧なまま進めてしまうケースです。目的が不明確だと、どのような情報を盛り込み、どのようなトーンで伝えるべきか、デザインの方向性が定まりません。結果として、焦点がぼやけた、誰にも響かないデザインになってしまいます。
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具体的な状況の例:
- 「とにかく団体の活動を知ってもらいたい」という漠然とした目的でパンフレットを作成した。
- イベント告知チラシに、日時や場所だけでなく、団体の沿革から全ての事業内容まで詰め込んでしまった。
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改善策:デザイン制作前の「目的」と「課題」の言語化 デザインに取りかかる前に、時間をかけて「なぜこのデザインが必要なのか」「このデザインを通じて、誰に、どのような状態になってほしいのか(例:イベントに参加してほしい、資料請求してほしい、寄付を検討してほしい)」といった具体的な目的と、現在の課題(例:イベントの認知度が低い、資料請求が少ない)を明確に言語化することが極めて重要です。
この段階で、団体内部の関係者と十分に話し合い、共通認識を持つことで、デザインの方向性が定まり、伝えるべきメッセージが明確になります。デザイナーに依頼する場合でも、この明確な目的意識を伝えることが、効果的なブリーフの基礎となります。
原因2:ターゲットが不在、または理解不足である
デザインは、特定の「誰か」にメッセージを届けるためのものです。しかし、デザイン対象となる広報物などが、どのような人々(ターゲット)に向けて作られているのかが不明確であったり、ターゲットの属性、関心、抱えている課題、情報収集の習慣などを十分に理解しないまま進めてしまうことがあります。ターゲットに響かないデザインは、どれだけ見た目が優れていても、目的を達成することはできません。
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具体的な状況の例:
- 高齢者向けの健康増進イベント告知チラシを、若者向けのウェブデザインのような派手な配色と小さな文字で作ってしまった。
- 寄付を検討している層が知りたい「寄付金の使い道」や「活動報告」に関する情報が、ウェブサイトの分かりにくい場所に配置されている。
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改善策:ターゲットペルソナの設定と深い理解 デザインを始める前に、対象となるターゲット像を具体的に設定すること(ペルソナ設定)が非常に有効です。例えば、「〇〇地域に住む50代の主婦で、子どもの教育に関心があり、普段は地域の回覧板や口コミで情報を得ている」のように、年齢、性別、職業、居住地、関心事、情報収集手段などを具体的に描写します。
ペルソナを設定したら、その人々がどのような情報に関心を持ち、どのような言葉やビジュアルに反応しやすいかを深く考察します。これにより、デザインのトーン&マナー、使うべき写真やイラスト、情報の構成などが明確になり、ターゲットに「自分ごと」として捉えてもらいやすくなります。
原因3:情報が整理されていない
伝えたい情報が多すぎて整理されていなかったり、情報の優先順位が定まっていなかったりすると、デザインは情報を詰め込むだけのものになってしまい、本当に伝えたいメッセージが埋もれてしまいます。情報過多で構造が不明瞭なデザインは、読者に混乱を与え、離脱を招きます。
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具体的な状況の例:
- 活動報告書に、全ての事業の細かい活動内容を羅列し、全体の成果やインパクトが分かりにくくなった。
- イベント告知バナーに、イベント名、日時、場所、登壇者、申し込み方法、団体の理念、連絡先など、あらゆる情報を小さなスペースに詰め込みすぎて可読性が著しく低い。
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改善策:情報設計と優先順位付けの徹底 デザイン制作の前に、まず「どのような情報を、どのような順番で、どのくらいの階層で伝えるか」という情報設計を行います。情報の優先順位を明確にし、最も重要な情報(例:イベントの参加メリット、寄付がもたらす変化)を最も目立つ形で配置することを意識します。
ワイヤーフレームや構成案を作成し、情報の流れや配置を整理してからデザインに進むと良いでしょう。不要な情報を削ぎ落とし、必要な情報が明確に、分かりやすく配置されているかを確認するプロセスは、伝わるデザインのために不可欠です。
原因4:デザイナーとのコミュニケーション不足
外部のデザイナーに依頼する場合、あるいは組織内の担当者間であっても、意図や要望、背景が十分に伝わらないままデザイン制作が進むと、認識のずれが生じ、期待していたデザインとは異なるものが出来上がることがあります。特にデザインの専門知識がない場合、どのように要望を伝えれば良いか分からず、あいまいな指示になってしまうことも原因となります。
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具体的な状況の例:
- 「おしゃれな感じにしてほしい」「もっとインパクトが欲しい」といった抽象的な指示だけでデザインを依頼した。
- デザインの意図や、なぜそのようにしたいのかという理由を説明せず、一方的に修正指示だけを伝えた。
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改善策:丁寧なブリーフ作成と継続的な対話 デザイナーへの依頼時には、前述の「目的・課題」「ターゲット」を明確に記したブリーフ(オリエンテーションシート)を丁寧に作成することが、コミュニケーションの基盤となります。参考となる事例(好きなデザイン、避けたいデザイン)を提示することも有効です。
制作途中でも、定期的な進捗確認や、デザイン案に対するフィードバックの機会を設けます。フィードバックを行う際は、単に「好き」「嫌い」ではなく、「なぜそう感じるのか」「この部分のメッセージをより強く伝えたい」といった具体的な理由や、目的に立ち返った視点で伝えることを心がけましょう。デザイナーはデザインの専門家ですが、活動の専門家は依頼者であるNPO側です。お互いの専門性を尊重し、対話を重ねることが、より良いデザインを生み出す鍵となります。
原因5:デザインの役割への誤解(装飾と思っている)
デザインを単なる「見た目を良くするための装飾」と考えてしまうと、本質的な課題解決や目的達成に繋がるデザインの効果を見落としてしまいます。デザインは情報を整理し、理解を助け、感情に訴えかけ、行動を促すための機能を持つものです。この役割を理解せずに見た目だけを追求すると、内容が伴わない、効果の薄いデザインになります。
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具体的な状況の例:
- デザインを依頼する際に、「とにかく格好良くしてくれれば」と伝えた。
- デザインの修正指示で、内容や構成よりも、色やフォントといった表面的な要素ばかりを指摘した。
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改善策:デザインを「課題解決ツール」として捉える視点を持つ デザインは、解決したい課題(例:情報が伝わらない、参加者が集まらない)に対する解決策の一部として機能します。デザインを依頼・検討する際には、「このデザインによって、どのような問題が解決され、どのような効果が期待できるのか」という視点を常に持つことが重要です。
例えば、複雑な活動内容を分かりやすく伝えたいという課題に対しては、情報を整理し、図解やイラストを効果的に使用したデザインが有効な解決策となります。デザインの見た目だけでなく、それが「誰に、何を、どのように伝え、どう行動してほしいのか」という目的達成にどう寄与するかを評価基準に加えることで、デザインの役割を正しく理解し、より実践的に活用できるようになります。
原因6:効果測定・振り返りの不足
デザインを公開・配布した後、それがどれだけの効果をもたらしたのか(例:チラシを見てイベントに何人来たか、ウェブサイトのデザイン変更後、問い合わせが何件増えたか)を測定せず、あるいは測定してもその結果を次のデザイン活動に活かさない場合、同じ失敗を繰り返してしまう可能性があります。デザインは一度作って終わりではなく、効果を検証し、改善を繰り返すことで、徐々にその精度を高めていくものです。
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具体的な状況の例:
- イベント告知チラシのデザインを変えて配布したが、前回のチラシと比べて参加者数に変化があったかを確認しなかった。
- ウェブサイトのデザインをリニューアルしたが、アクセス解析やユーザーの行動を分析せず、改善点が見いだせていない。
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改善策:デザイン活動の「効果測定」と「改善サイクル」の導入 デザインを用いた活動を行う際には、事前にどのような指標(例:ウェブサイトのPV数、滞在時間、コンバージョン率、イベント参加者数、資料請求数、寄付額)で効果を測定するかを決めておきます。デザイン公開後にこれらの指標を測定し、当初の目的と比較してどうであったかを分析します。
うまくいかなかった点については、その原因を仮説立てて分析し、次のデザイン制作や改訂に活かします。小さなテスト(例:A/Bテスト)を実施して、どちらのデザインが効果的か検証するなども有効です。このように、デザインを単発の制作物としてではなく、効果測定と改善を繰り返すPDCAサイクルの一部として捉えることで、デザインの質と効果を継続的に向上させることができます。
失敗から学び、より良いデザイン実践へ
デザインがうまくいかない原因は一つとは限りません。多くの場合、上記の原因が複合的に絡み合っています。しかし、原因を特定し、一つずつ丁寧に対策を講じていくことで、デザインの効果を確実に高めることができます。
デザインの失敗は、決して無駄ではありません。それは、デザインを通じたコミュニケーションの課題を浮き彫りにし、改善の機会を与えてくれるものです。重要なのは、失敗を恐れるのではなく、そこから何を学び、次にどう活かすかという姿勢です。
デザイン知識が少ないと感じているNPO広報担当者の方でも、今回ご紹介したような原因分析と改善策の視点を持つことで、デザイナーとの協働がスムーズになったり、内製でのデザイン制作の質が向上したりすることが期待できます。
まとめ
この記事では、NPOの広報活動においてデザインが期待する効果を発揮しない場合に考えられる主な原因として、「目的・課題の不明確さ」「ターゲット理解不足」「情報整理の不足」「デザイナーとのコミュニケーション不足」「デザインの役割への誤解」「効果測定・振り返りの不足」を挙げ、それぞれの改善策を解説しました。
デザインを成功させるためには、単に見た目の良さだけでなく、明確な目的設定、ターゲットへの深い理解、情報の整理、関係者との密なコミュニケーション、デザインの機能への理解、そして継続的な効果測定と改善が必要です。
もし、あなたの団体のデザイン活動が「うまくいかない」と感じているのであれば、ぜひこの記事で挙げた原因に照らし合わせて、どこに課題があるのかを分析してみてください。そして、小さな改善からでも良いので、具体的な対策を試みていただければ幸いです。デザインは、社会をより良くするための強力なツールです。デザインの力を最大限に引き出し、活動をより効果的に伝えていきましょう。