NPO広報担当者のための、デザイナーへの効果的なフィードバック術
はじめに
ウェブサイトやパンフレット、チラシなど、団体の広報物デザインを外部のデザイナーに依頼することは、NPOの活動を効果的に伝える上で非常に重要です。しかし、初めてデザイナーと協働する方や、デザインの専門知識がないNPO広報担当者の方にとって、「どのようにデザインへの意見や修正依頼を伝えたら良いのか分からない」という悩みは少なくありません。
デザイナーに「なんか違うんです」「もっとこうしてほしい」といった曖昧な伝え方をしてしまうと、意図が正確に伝わらず、何度もやり取りが発生したり、期待した仕上がりにならなかったりする場合があります。これは時間やコストの無駄になるだけでなく、デザイナーとの信頼関係にも影響を及ぼしかねません。
効果的なフィードバックは、デザインの質を高め、最終的に団体のコミュニケーション目標達成に貢献するための重要なプロセスです。この章では、デザインの専門知識がないNPO広報担当者の方でも実践できる、デザイナーへの具体的なフィードバックの方法について解説します。
なぜ効果的なフィードバックが必要なのか
デザインの目的は、単に見た目を良くすることではなく、特定のターゲットに対してメッセージを届け、共感や行動を促すことです。デザイナーはプロとしてその目的達成を目指してデザインしますが、団体の活動内容、ターゲット層の特性、伝えたいニュアンスなど、詳細な背景情報はNPOの担当者が最もよく理解しています。
効果的なフィードバックは、デザイナーがプロジェクトの目的をより深く理解し、それをデザインに反映させるための重要な手がかりとなります。単なる修正指示ではなく、「なぜそのように感じるのか」「何を達成したいのか」を具体的に伝えることで、デザイナーは意図を汲み取り、より的確な解決策を提案できるようになります。これにより、手戻りが減り、限られた時間と予算の中で最大の効果を出すことが期待できます。
フィードバックの前に準備すること
フィードバックを行う前に、いくつかの準備をすることで、より建設的な対話が可能になります。
- 依頼時の目的とターゲットの再確認: デザインを依頼した当初の目的（例: イベントの参加者を増やす、寄付を募る、団体の認知度向上）と、想定するターゲット層を改めて確認しましょう。フィードバックは、これらの目的やターゲットに照らして、デザインが機能しているかという視点で行うべきです。
- 譲れない要素と調整可能な要素の整理: デザインにおいて、団体のロゴの位置や特定の情報（日時、場所など）の明確さなど、絶対に譲れない要素があるはずです。一方で、色合いやフォント、レイアウトの一部など、目的が達成されれば調整可能な要素もあります。これらを整理しておくと、フィードバックの焦点を絞りやすくなります。
- チーム内での意見集約: 複数人でデザインを確認する場合、それぞれの意見を事前に集約しておきましょう。バラバラの意見をそのまま伝えると、デザイナーが混乱してしまいます。なぜその意見が出たのか、団体の目的達成の観点から見てその意見が妥当か、を議論し、統一見解として伝えることが望ましいです。
具体的なフィードバックのポイント
準備ができたら、以下のポイントを意識してフィードバックを伝えましょう。
- 感情的にならず、客観的に伝える: 「なんか好きじゃない」「センスがない」といった感情的な言葉や、主観的な評価は避けましょう。デザインの良し悪しではなく、それが「目的に合致しているか」「ターゲットに伝わるか」という視点で評価し、具体的にどこがどのように課題だと感じるかを伝えます。
- 具体的に、理由を添えて伝える: 「文字が小さすぎる」だけでなく、「高齢者にも読んでもらいたいので、もう少し文字を大きくしてほしい」「スマートフォンの小さな画面で見たときに、文字が潰れて読みにくく感じる」のように、具体的な箇所と、なぜそう感じたのか、それがどのような課題につながるのか（誰がどのように困るのか）という理由を添えて伝えましょう。
- デザインの要素ごとに分解して伝える: レイアウト、配色、フォント、写真・イラスト、文章の配置など、デザインを構成する要素ごとにフィードバックを整理すると、デザイナーは修正箇所を特定しやすくなります。「全体の印象が暗い」というだけでなく、「背景色が青すぎると感じる。もう少し明るいトーンに調整してほしい」のように、どの要素の何が気になるかを具体的に指摘します。
- 代替案ではなく、課題を伝える: 「ここを赤色にしてほしい」と具体的な代替案を伝えるよりも、「この部分を目立たせたいのだが、現状では埋もれてしまっているように感じる」のように、何を達成したいか（課題）を伝える方が、デザイナーはより良い解決策を提案できる場合があります。ただし、明確な指定がある場合はその限りではありません。
- 良い点も伝える: 改善してほしい点だけでなく、デザインの良い点や目的を達成できていると感じる点も伝えましょう。これはデザイナーのモチベーション維持につながるだけでなく、NPO側がデザインの意図を理解していることを示し、その後のコミュニケーションを円滑にします。
フィードバックを伝えるツールや形式
フィードバックの方法にはいくつか選択肢があります。プロジェクトの規模や関係性、状況に応じて使い分けることが有効です。
- メール: 修正箇所が多い場合や、詳細な説明が必要な場合に適しています。デザインの画像やPDFにコメント機能で注釈をつけたり、箇条書きで整理したりすると分かりやすくなります。
- オンラインコメントツール: プロトタイピングツール（Figmaなど）や、画像共有サービスにはコメント機能が付いているものがあります。デザイン上の特定の箇所をピンポイントで指摘できるため、視覚的に分かりやすいフィードバックが可能です。
- 直接対話（オンラインミーティングや対面）: 細かいニュアンスを伝えたい場合や、複雑なデザインで口頭での説明が必要な場合に有効です。画面共有などを活用しながら、一緒にデザインを見ながら話すと理解が深まります。ただし、話した内容を議事録などで記録しておくと、後々の誤解を防げます。
どの方法を選ぶにしても、前述の「具体的なフィードバックのポイント」を意識して伝えることが重要です。
ケーススタディ：イベント告知チラシのデザインフィードバック
あるNPOが地域住民向けのイベント告知チラシのデザインをデザイナーに依頼したとします。初回デザイン案が届き、広報担当者は以下のようなフィードバックを検討しました。
- 当初の感想: なんか地味。もう少し賑やかな感じにしてほしい。
- 目的・ターゲットの再確認: 目的は地域住民（高齢者を含む）へのイベント認知と参加促進。ターゲットはスマホを持たない層も想定。
- 具体的なフィードバックへの変換:
- 「地味」という感想を具体的な課題に：「タイトル文字が小さく、遠くからだと目立ちにくい」「メイン写真が活動内容と関連性が薄く、何のイベントか分かりづらい」「イベント概要の情報が詰まっていて、高齢者には読みにくい可能性がある」
- 「賑やかな感じ」の意図：「イベントの楽しさや温かい雰囲気を伝えたい」「多くの人に足を運んでもらいたいという気持ちを表現したい」
- 実際のフィードバック例: 「デザイン案、ありがとうございます。イベントの雰囲気は伝わってまいりました。いくつかご相談させてください。まず、イベントタイトルですが、地域の掲示板など遠くから見ることも想定しており、もう少し大きく、視認性を高めていただけると助かります。また、メインの写真についてですが、今回のイベントの具体的な内容（例:〇〇のワークショップ）がより伝わるような写真、あるいは参加者の楽しそうな雰囲気が伝わるような写真をご提案いただくことは可能でしょうか。最後に、イベント概要のテキスト部分ですが、ターゲットには高齢者も多く含まれますため、フォントサイズを少し大きくするか、行間を調整するなどして、可読性を上げていただけると大変ありがたいです。全体としては、温かみのある色使いなど、良い点も多くあると感じております。」
このように、感情的な評価から離れ、目的やターゲットに照らして具体的な課題点を指摘し、その理由や意図を丁寧に伝えることで、デザイナーは修正の方向性を明確に理解し、より効果的なデザインへと改善を進めることができます。
まとめ
デザインの専門知識がないNPO広報担当者にとって、デザイナーへのフィードバックは難しいと感じるかもしれません。しかし、効果的なフィードバックは、単にデザインを修正してもらう行為ではなく、団体の目的達成に向けてデザイナーと共に最高のコミュニケーションツールを作り上げるための「協働プロセス」です。
フィードバックの前に目的やターゲットを整理し、感情的にならず、具体的かつ理由を添えて伝えることを心がけましょう。デザインの良い点も忘れずに伝え、デザイナーとの信頼関係を築くことも長期的な協働においては非常に重要です。
ぜひ、この章で解説したポイントを参考に、デザイナーとのコミュニケーションをさらに深め、デザインの力で NPO の活動をより広く、効果的に伝えていただければ幸いです。