NPOのデザイン、内製?外注? 広報担当者のための判断基準と実践ガイド
デザインは、NPOの活動をより多くの人々に効果的に伝え、共感を広げるための強力なツールです。ウェブサイト、広報チラシ、報告書、SNS投稿など、様々な場面でデザインの力が求められます。しかし、限られた予算とリソースの中で活動するNPOにとって、デザインを組織内で手掛ける(内製)べきか、それとも外部の専門家(デザイナー)に依頼する(外注)べきかという判断は、しばしば頭を悩ませる問題となります。
デザインの専門知識がないNPO広報担当者の方々にとって、この選択は難しく感じられるかもしれません。内製すればコストは抑えられるかもしれないが品質に不安がある、外注すれば高品質なものが得られるかもしれないが高額になるのではないか、といった懸念があることでしょう。
この記事では、NPOの広報担当者がデザインの内製と外注を判断するための具体的な基準と、それぞれの選択肢における実践的な考え方について解説します。団体の状況に合わせた最適な方法を見つける一助となれば幸いです。
NPOにおけるデザイン内製のメリットとデメリット
まず、デザインを組織内で手掛ける、いわゆる内製について考えてみます。
メリット
- コスト削減の可能性: 外部に依頼する費用がかからないため、直接的なデザイン制作費用を抑えることができます。
- 迅速な対応: 内部で完結するため、急な修正や変更にも比較的柔軟に対応できます。
- 活動への深い理解: 団体のビジョン、ミッション、活動内容、伝えたいメッセージを深く理解した上でデザインできる可能性があります。外部のデザイナーに説明するコミュニケーションコストが省ける場合もあります。
- 組織内のスキル蓄積: 内製を進める過程で、担当者のデザインに関するスキルや知識が向上します。
デメリット
- 専門知識・スキルの限界: デザインには専門的な知識や技術が必要です。担当者のスキルによっては、期待する品質のデザインを作成できない可能性があります。
- 品質のばらつき: 専門的なトレーニングを受けていない場合、制作物ごとに品質にばらつきが生じやすく、団体のブランドイメージに影響を与える可能性があります。
- 担当者の負担増: 本来の広報業務に加えてデザイン業務が加わることで、担当者の業務負担が大幅に増加する可能性があります。
- 客観性の欠如: 内部の人間だけでは、客観的な視点や新しい発想が生まれにくい場合があります。
NPOにおけるデザイン外注のメリットとデメリット
次に、外部のデザイナーに依頼する外注について考えてみます。
メリット
- 高品質なデザイン: プロフェッショナルなデザイナーは、専門知識と経験に基づき、目的に合致した高品質なデザインを提供してくれます。視覚的な魅力はもちろん、ターゲットに「伝わる」デザインを実現する可能性が高まります。
- 時間とリソースの節約: デザイン制作の専門的な部分を外部に委託することで、NPOのスタッフはコア業務に集中できます。
- 新しい視点とアイデア: 外部のデザイナーは、団体の活動を客観的に捉え、内部からは生まれにくい斬新なアイデアや表現をもたらしてくれることがあります。
- 最新のトレンドや技術: デザイン業界の最新のトレンドや技術に精通しており、より効果的なデザイン手法を提案してくれる可能性があります。
デメリット
- コスト増: 専門家への依頼には費用が発生します。予算が限られているNPOにとっては大きなハードルとなる可能性があります。
- コミュニケーションコスト: 団体の意図や目的を正確に伝えるためのコミュニケーションが必要です。誤解が生じると、期待通りのデザインが得られない場合があります。
- 納期管理: 外部に依頼する場合、デザイナーのスケジュールに依存するため、計画的な進行管理が重要になります。
- 要望の伝達難易度: デザインの専門知識がない場合、自身のイメージや要望をデザイナーに適切に言語化して伝えることが難しい場合があります。
内製と外注を判断するための基準
それでは、具体的にどのような基準で内製と外注を選択すれば良いのでしょうか。いくつかの重要な判断基準を挙げます。
- 予算: 最も現実的な制約要因です。確保できる予算に応じて、内製か外注か、あるいはその組み合わせかを検討します。限られた予算でもプロボノやNPO割引などを提供するデザイナーを探す、助成金でデザイン費用を確保するといった選択肢もあります。
- 必要なデザインの質と複雑性: 団体の「顔」となるロゴやウェブサイト、重要なキャンペーン用のメインビジュアルなど、高い品質や専門性が求められる場合は、外注を検討する方が良いでしょう。一方、日々のSNS投稿用の画像や、簡単なチラシの修正などであれば、内製で対応できる可能性が高まります。
- デザインの目的: そのデザインで何を達成したいのかを明確にします。認知度向上、寄付募集、イベント集客など、目的によって求められるデザインの力は異なります。重要な目的のためには、プロの力を借りる方が効果的である場合があります。
- 組織内のデザインリソース(スキル、時間、ツール): 組織内にデザイン経験のあるスタッフがいるか、デザインに充てられる時間はどのくらいか、デザインツール(例: Canva, Adobe Expressなど)を使用できる環境があるかなどを考慮します。
- 制作頻度と緊急度: 頻繁にデザイン制作が必要な場合や、常にスピーディーな対応が求められる場合は、内製の方が管理しやすいかもしれません。ただし、担当者の負担増加には注意が必要です。
- 将来的なデザイン戦略: 短期的な制作物だけでなく、長期的な視点で団体のブランドイメージをどのように構築・維持していくかを考慮に入れると、デザインの専門家との継続的な関係構築(外注)が有効な場合もあります。
これらの基準を総合的に判断し、団体の現状と目的に最も合致する方法を選択することが重要です。
実践的な選択肢とハイブリッド戦略
内製か外注かの二者択一ではなく、状況に応じて様々な選択肢を組み合わせる「ハイブリッド戦略」も有効です。
- 重要なデザイン(ロゴ、ウェブサイトなど)は外注、日常的な制作物(SNS画像、簡易チラシなど)は内製: これは多くのNPOにとって現実的な選択肢です。プロに団体の基盤となるデザインシステムやテンプレートを作成してもらい、それを基に内部で日常的な制作物を作成します。
- テンプレートを活用した内製: Canvaなどのデザインツールが提供する豊富なテンプレートや、デザイナーに作成してもらったオリジナルテンプレートを活用することで、デザイン知識がなくても一定品質の制作物を効率的に作成できます。
- プロボノやボランティアのデザイナーとの連携: スキルはあるが時間や予算が限られる場合、活動に共感してくれるプロボノやボランティアのデザイナーの協力を仰ぐことも考えられます。ただし、プロボノであっても依頼内容や期待値を明確に伝えるコミュニケーションは非常に重要です。
- 部分的な外注: デザインの企画構成やメインビジュアル作成といった「デザインの根幹」に関わる部分のみプロに依頼し、その後のレイアウトや文字調整などは内部で行うといった分業も可能です。
大切なのは、完璧なデザインを目指すこと以上に、限られたリソースの中で「伝わる」デザインを効果的に、継続的に生み出すことです。
まとめ
NPOがデザインを内製するか外注するかは、予算、目的、必要な品質、組織のリソースなど、様々な要因を考慮して慎重に判断すべき課題です。それぞれのメリットとデメリットを理解し、単一の選択肢にこだわらず、ハイブリッドな方法も視野に入れることが有効です。
この記事で紹介した判断基準や実践的な考え方が、皆様の団体にとって最適なデザイン戦略を検討する一助となれば幸いです。デザインは単なる飾りではなく、社会的な目的達成のための強力な手段です。賢くデザインの力を活用し、団体の活動をさらに力強く進めていきましょう。