社会とデザインの実践論

NPO広報担当者のための、デザイン成果を組織内で共有し、活動に活かす方法

Tags: デザイン活用, NPO広報, 組織開発, コミュニケーション, デザインマネジメント

はじめに

NPOの広報担当者の皆様は、団体の活動を伝えるために様々なデザイン物(チラシ、ウェブサイトのバナー、SNS画像、活動報告書など)を制作されていることと思います。外部のデザイナーに依頼したり、テンプレートやデザインツールを使ってご自身で作成したりと、その方法は様々でしょう。

これらのデザイン物が完成した際、ファイルデータを共有するだけでなく、そのデザインが持つ意図や背景、そして活動にもたらすであろう効果を組織内のメンバーに適切に伝えることは、デザインの価値を最大限に引き出し、活動をさらに推進するために非常に重要です。しかし、デザインに関する専門知識がないメンバーに、その意図を分かりやすく伝えたり、デザインを活動に主体的に活用してもらうように促したりすることに難しさを感じている広報担当者の方もいらっしゃるかもしれません。

この記事では、NPO広報担当者が、制作したデザイン成果物を組織内で効果的に共有し、メンバーが日々の活動の中でデザインを積極的に活用できるようになるための具体的な方法について解説します。

なぜデザイン成果の組織内共有・浸透が重要なのか

デザインは単なる「装飾」ではなく、情報を整理し、メッセージを効果的に伝え、共感や行動を促すための強力な「ツール」です。広報担当者が心を込めて作ったデザインも、その目的や使い方が組織内で十分に理解されていなければ、その力は半減してしまいます。

デザイン成果を組織内で適切に共有し、浸透させることには、以下のような利点があります。

デザイン成果物の「共有」とは単なるファイル共有ではない

ここで言う「デザイン成果物の共有」とは、完成した画像ファイルやPDFデータを共有フォルダに入れることだけを指すのではありません。それは、デザインそのものだけでなく、以下の要素をセットで伝えることを意味します。

特に非デザイナーにとって、デザインの見た目だけを見ても、その背後にある意図や目的を読み取ることは難しいものです。これらの情報を丁寧に伝えることで、メンバーはデザインを単なる絵や文字の集まりとしてではなく、意味のあるツールとして捉えることができるようになります。

デザイン成果を効果的に共有するための実践的な手法

1. 共有のタイミングと場を工夫する

完成したデザインを共有するだけでなく、企画段階や制作途中でも、デザインの方向性や進捗を共有する機会を持つことが有効です。これにより、メンバーはデザインプロセスに関心を持ちやすくなり、完成物をより自分事として捉えることができます。

2. 非デザイナーにも伝わる言葉で解説する

デザイン専門用語(例: トンボ、塗り足し、ジャンプ率など)は避け、誰もが理解できる平易な言葉で説明することを心がけます。

3. 活用方法を具体的に示す

デザインを共有するだけでなく、「このデザインを使って、あなたの担当するイベントの告知に使ってみてください」「この画像は、活動報告ブログのアイキャッチとして使えます」のように、具体的な活用シーンを提示します。必要であれば、簡単な使い方ガイド(例: SNS投稿用の画像サイズ、印刷時の注意点など)を作成して共有することも有効です。

4. 簡易デザインガイドラインを作成・共有する

全てのデザイン成果物について詳細な説明をするのは大変です。団体のロゴの使用規定、基本的なフォント、メインカラーなど、頻繁に使用する要素について、非デザイナー向けの簡易的なデザインガイドラインを作成し、共有しておくと便利です。これにより、メンバーが自分で資料を作成する際などに、デザインに一貫性を持たせやすくなります。

5. デザインに関する小さな疑問を解消する場を作る

「このデザインはこれで合っているかな?」「この部分だけ変えて使ってもいい?」など、メンバーがデザイン活用に関して気軽に質問できる雰囲気や場を作ります。広報担当者が相談窓口となるほか、チャットツールの特定のチャンネルをQ&A用に開放するなど、心理的なハードルを下げる工夫が有効です。

ケーススタディ(想定)

地域に根差した子育て支援NPO「わっくわく広場」の広報担当者Aさんの事例です。

Aさんは、新しい寄付募集キャンペーンのために、デザイナーに依頼して魅力的なチラシとウェブサイトのバナーを作成しました。完成したデザインをファイル共有フォルダにアップロードしただけでは、多くのメンバーは「素敵なデザインだね」と言うだけで、特に活用が進みませんでした。

そこでAさんは、次回のスタッフミーティングの冒頭で、作成したデザインについて短く発表する時間をもらいました。デザインそのものを見せながら、「このデザインは、子育て中の忙しいお母さんたちに『わっくわく広場』の活動を知ってもらい、共感して寄付をしてもらうためのものです」と目的を説明。

次に、「この明るい黄色は、子どもたちの笑顔と希望を表しています。手書き風のイラストは、アットホームで親しみやすい雰囲気を出すためです」のように、デザイン要素に込められた意図を分かりやすく解説しました。

さらに、「このバナー画像は、皆さんのFacebookやLINEでシェアできます。特に『こんな活動に共感したら、ぜひ応援してください!』というメッセージと一緒に投稿していただくと効果的です」と具体的な活用方法を提示しました。

その結果、デザインの意図を理解したスタッフたちは、「このチラシ、地域のイベントで配る時に、デザインについて聞かれたらこう答えればいいんですね」「早速、自分のSNSでバナーをシェアしてみます」と積極的にデザインを活用し始めました。中には、デザインのイメージに合わせて、自身のブログのヘッダー画像を工夫するスタッフも現れました。

この経験を通じて、Aさんはデザイン成果を単に提供するだけでなく、その背景にあるストーリーや活用方法を丁寧に伝えることの重要性を実感しました。

デザインを組織文化として根付かせるために

デザイン成果の共有・浸透は、一度行えば終わりではありません。継続的に組織内のデザインリテラシーを高め、デザインを活動推進のための当たり前のツールとして捉えてもらうためには、長期的な視点での取り組みも重要です。

まとめ

NPO広報担当者にとって、デザイン成果を組織内で効果的に共有し、メンバーが活動に主体的に活用できるようにすることは、広報効果を高める上で非常に重要なステップです。デザインのファイルだけでなく、その「目的」「意図」「活用方法」をセットで、非デザイナーにも分かりやすい言葉と方法で伝えることを心がけましょう。

これは一朝一夕にできることではありませんが、継続的に取り組むことで、組織全体のデザインリテラシーが向上し、デザインが活動をさらに力強く推進するツールとして根付いていきます。今回ご紹介した実践的な手法が、皆様の団体のデザイン活用をより豊かなものにする一助となれば幸いです。