NPO広報担当者のための、デザインの見た目を整えるレイアウト入門
はじめに:なぜレイアウトが重要なのか
NPOの広報物を制作する際、「どんな情報を載せるか」に多くの時間や労力をかけられていることと思います。確かに、伝えたいメッセージや情報は広報の核です。しかし、その情報がどのように配置されているか、つまり「レイアウト」も、メッセージが相手に「伝わる」かどうかを大きく左右します。
デザインの知識がないから、どう配置すればいいかわからない。デザイナーに依頼する予算はない、あるいは自分でCanvaなどのツールを使って作っているけれど、どうもプロっぽく見えない。そうお悩みかもしれません。
レイアウトは、単に見た目を装飾するものではありません。情報を整理し、優先順位をつけ、読者の視線を適切に誘導することで、伝えたいメッセージをより明確に、そして効果的に届けるための強力なツールです。この入門記事では、デザイン経験のないNPO広報担当者の方でもすぐに実践できる、基本的なレイアウトの考え方をご紹介します。
レイアウトとは何か
レイアウトとは、ポスター、チラシ、ウェブサイト、SNS投稿画像といったデザイン物の中に、文字、画像、図などの様々な要素を配置し、構成することです。これは単に要素を並べることではなく、情報に構造を与え、読者が内容を理解しやすくするための設計作業と言えます。
良いレイアウトは、読者に無意識のうちに情報の重要度や関連性を伝え、ストレスなく読み進めてもらうことを可能にします。逆に、レイアウトが乱れていると、情報が頭に入りにくく、伝えたいことが伝わらないといった事態を招いてしまいます。
デザインの基本原則:CRAP(またはPARC)
デザインの世界には、レイアウトを含む視覚的な構成の基本となるいくつかの原則があります。今回は特に重要な4つの原則を、それぞれの頭文字をとって「CRAP」や「PARC」と呼ばれる考え方を中心に見ていきましょう。これは英語の原則の頭文字ですが、日本語で言い換えて理解すると分かりやすいです。
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整列(Alignment):揃える
- 要素の端や中心線をどこかで揃えるという原則です。すべての要素をバラバラに配置するのではなく、見えない線を意識して揃えることで、画面全体に統一感と秩序が生まれます。
- 例えば、文章の始まりや画像の端を揃える、複数の項目をリストアップする際に左端を揃えるといった簡単なことでも、見た目が大きく変わります。中央揃え、左揃え、右揃えなどがありますが、特に大量の文字情報では、左揃えが最も読みやすいとされています。
- ツールで要素を配置する際に表示されるガイド線などを活用すると、自然と整列を意識しやすくなります。
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近接(Proximity):近くに置く
- 関連性の高い情報は近くに配置し、関連性の低い情報は離して配置するという原則です。これにより、情報がグループ化され、読者は内容の構造を直感的に理解できます。
- 例えば、イベントの「日時」と「場所」は関連性が高いため近くに、「申し込み方法」と「問い合わせ先」も関連性が高いため近くに配置するといった具合です。各グループの間には適切な余白を設けることで、それぞれの情報ブロックが明確になります。
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反復(Repetition):繰り返す
- デザインの中で特定の要素(色、フォント、線、スペースの取り方など)を繰り返し使用するという原則です。これにより、広報物全体に一貫性が生まれ、ブランドイメージの構築にも繋がります。
- 例えば、見出しに使うフォントや色、本文に使うフォント、箇条書きの記号、重要な情報を囲む線の種類などを統一すると、複数のページや異なる広報物であっても、同じ団体からの情報だと認識しやすくなります。これは、団体の活動報告書やイベント告知など、一連の広報物を作成する際に非常に有効です。
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コントラスト(Contrast):対比をつける
- 要素間に意図的な違い(大きさ、色、形、フォントの種類など)をつけることで、特定の情報を強調し、視線誘導を行う原則です。これにより、画面に単調さがなくなり、重要な情報が際立ちます。
- 例えば、イベント名を目立たせるために本文よりも大きなフォントサイズを使う、背景色とはっきり区別できる文字色を使う、重要なメッセージを太字にする、といった方法があります。ただし、コントラストをつけすぎると統一感が失われることもあるため、目的を意識して活用することが大切です。
実践的なレイアウトのコツ
上記の基本原則を踏まえつつ、さらに見た目を良くするための実践的なコツをいくつかご紹介します。
- 余白を恐れない: 情報と情報の間に適切な「余白(ホワイトスペース)」を設けることは、レイアウトにおいて非常に重要です。余白は単なる空白ではなく、情報を区切って整理し、要素を目立たせ、読みやすさを向上させる役割を果たします。詰め込みすぎず、情報が呼吸できるようなスペースを意識してください。
- 視線誘導を意識する: 人は広報物を見る際に、特定の方向に視線が動きやすい傾向があります(例:Zの法則、Fの法則)。読者の視線の流れを予測し、伝えたい情報の優先順位に従って要素を配置することで、メッセージがより効果的に伝わります。例えば、最も重要な情報は視線が最初に到達しやすい位置(チラシなら左上や中央)に配置すると良いでしょう。
- グリッドシステムを理解する(簡易版): 複雑に聞こえるかもしれませんが、基本的には画面を縦横の線で分割し、その線に沿って要素を配置するという考え方です。これにより、デザイン全体に構造と一貫性が生まれます。ツールによってはテンプレートにグリッドが設定されていたり、自分で簡単なグリッド(例えば、3分割や4分割)を意識するだけでも、整然としたレイアウトになります。
NPOの広報活動にレイアウトを活かす
これらのレイアウトの基本原則は、NPOの様々な広報活動に応用できます。
- チラシ・ポスター: イベント告知や活動紹介のチラシでは、見出し、本文、日時、場所、連絡先などの情報を近接と余白で適切にグループ化し、整列で統一感を出し、コントラストで最も伝えたいこと(例:イベント名、参加費用、重要な日付)を強調します。
- SNS投稿画像: 限られたスペースの中で情報を効果的に伝える必要があります。伝えたいメッセージを短くまとめ、画像やイラストと組み合わせて、反復(団体のロゴやテーマカラーなど)を意識しつつ、コントラストで見出しやアクション喚起(例:「詳細はこちら」)を目立たせます。
- 活動報告書: 多くの情報量になるため、情報の階層化(見出し、小見出し、本文)を明確にし、整列と余白を駆使して読みやすい誌面を作ります。グラフや写真も、本文との関連性を意識して近接させて配置します。
- ウェブサイト: ウェブサイト全体のデザインはもちろん、個別のページのレイアウトも重要です。モバイル対応も考慮し、情報をブロックごとに整理し、視線誘導を意識した配置を行います。
デザインツールを使う際にも、これらの原則を意識することで、テンプレートをただ使うだけでなく、より目的に合った、洗練されたデザインに調整できるようになります。
まとめ:レイアウトを意識し、伝わるデザインへ
デザイン知識がないからといって、レイアウトを意識しないのはもったいないことです。今回ご紹介した「整列」「近接」「反復」「コントラスト」、そして「余白」といった基本的な考え方を少し意識するだけでも、制作する広報物の見た目は大きく改善され、結果としてメッセージがより多くの人々に、より効果的に伝わるようになります。
デザイナーに依頼する場合でも、これらの基本的な原則を理解しておくと、デザイン意図をより深く理解できたり、効果的なフィードバックを行ったりする際に役立ちます。
難しい専門知識は必要ありません。まずは、ご自身の広報物でこれらの原則がどのように使われているか、あるいはどのように応用できるか、少し立ち止まって考えてみてください。レイアウトを意識することで、あなたのNPOの活動が、デザインの力でもっと多くの人々に届くことを願っています。