NPO広報担当者のための、デザイン素材の著作権・利用規約 入門ガイド
はじめに
団体の活動を多くの人に伝える上で、魅力的なデザインは非常に有効なツールです。広報物やウェブサイトに使用する写真、イラスト、アイコンといった「デザイン素材」は、その印象を大きく左右します。しかし、これらの素材を利用する際には、「著作権」や「利用規約」について正しく理解しておくことが不可欠です。意図せず著作権を侵害してしまったり、利用規約に違反したりすることは、団体の信頼性を損なうだけでなく、法的なトラブルに発展する可能性も否定できません。
デザインに関する専門知識がない広報担当者の方にとって、著作権や利用規約は難しく感じられるかもしれません。しかし、基本的なルールと確認すべきポイントを押さえることで、安心してデザイン素材を活用できるようになります。この記事では、NPOの広報担当者が知っておくべきデザイン素材に関する著作権と利用規約の基本、そして具体的な注意点について解説します。
デザイン素材と著作権の基本
著作権とは、思想または感情を創作的に表現したものであり、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの(著作物)を創作した著作者に与えられる権利です。写真、イラスト、デザインそのものも著作物に含まれます。著作権は、著作者に無断で著作物を利用されないように保護する権利であり、原則として創作した時点で自動的に発生します(申請や登録は不要です)。
著作権には、大きく分けて「著作権(財産権)」と「著作者人格権」があります。
- 著作権(財産権): 著作物の利用を許諾したり、対価を得たりする権利です。複製権(コピー)、上演権・演奏権、公衆送信権(インターネット配信)、展示権、譲渡権、貸与権、翻訳権・翻案権などが含まれます。
- 著作者人格権: 著作者の名誉や感情を保護するための権利です。公表権(未公表の著作物を公表するかどうか)、氏名表示権(実名か匿名か、氏名を表示するかどうか)、同一性保持権(著作物の内容や題号を意に反して変更されない権利)などがあります。
NPOの広報活動でデザイン素材を利用する場合、これらの権利を侵害しないように注意する必要があります。特に、インターネット上で見つけた画像を安易に利用したり、素材の改変が許可されていないのに色や形を変更したりすることは、著作権侵害や著作者人格権の侵害にあたる可能性があります。
よく利用するデザイン素材の種類と注意点
NPOの広報活動でよく利用されるデザイン素材には、いくつかの種類があります。それぞれの素材について、利用する際の注意点を確認しましょう。
1. フリー素材サイトの画像・イラスト
多くのNPOが、予算を抑えるために無料で使用できる素材サイトを利用していることでしょう。しかし、「フリー」だからといって、どのように利用しても良いわけではありません。
- 利用規約の確認: 最も重要なのは、必ずサイトごとの利用規約を確認することです。利用規約には、商用利用の可否(NPOの活動は多くのケースで「商用」とみなされます)、加工・編集の可否、クレジット表記の必要性、使用できない媒体や目的(例:公序良俗に反する用途)などが具体的に記載されています。
- ライセンスの種類: クリエイティブ・コモンズ・ライセンスなど、素材ごとに特定のライセンスが付与されている場合もあります。ライセンスの内容を理解し、求められている条件(例:BY=表示、SA=継承、NC=非営利、ND=改変禁止)を遵守する必要があります。
- 提供元の確認: 提供されている素材が、本当に著作権者自身によってアップロードされたものか、疑わしい場合は利用を避けるのが賢明です。
2. 有償素材サイトの画像・イラスト
ストックフォトサイトなどの有償素材は、一般的に利用規約が明確で、品質が高いものが豊富です。利用には費用がかかりますが、安心して使用できるメリットがあります。
- ライセンスの種類と範囲: 購入する際に、どのようなライセンス(例:スタンダードライセンス、拡張ライセンス)が付与されるか確認してください。ライセンスによって、利用できる媒体、印刷部数、Webサイトでの表示回数、複数人での利用の可否などが定められています。NPOの活動規模や利用目的に合ったライセンスを選択することが重要です。
- 禁止事項: 有償素材であっても、利用規約で禁止されている行為(例:素材そのものを商品として再配布・販売する、特定の人物の肖像を貶めるような文脈で使用する)があります。禁止事項も必ず確認してください。
3. デザイナーに制作を依頼したデザイン
専門のデザイナーに団体のためにデザイン制作を依頼した場合、制作物の著作権がどのように扱われるかを確認しておく必要があります。
- 契約内容の確認: 著作権は原則として著作者であるデザイナーに帰属します。 NPOが制作物の著作権(利用権)をどのように扱えるかは、デザイナーとの契約内容に依存します。広報活動で必要な範囲(ウェブサイト、チラシ、報告書などへの掲載、配布、複製など)で利用できる権利が許諾されているか、あるいは著作権の譲渡を受けるかなど、事前に明確な合意形成と契約書(またはそれに準じる書面)での確認が不可欠です。
- 二次利用や改変: 一度依頼したデザインを、当初の想定していなかった目的で利用する場合や、団体の側で一部改変したい場合なども、契約で許可されているか確認が必要です。後々のトラブルを防ぐため、契約締結時に可能な二次利用の範囲や改変のルールについて話し合っておくことをお勧めします。
4. 団体の活動風景などを撮影した写真
NPO自身の活動で撮影した写真も重要なデザイン素材となります。この場合、著作権は撮影者に帰属しますが、被写体に関する権利も考慮する必要があります。
- 肖像権・プライバシー: 写り込んでいる人物には肖像権やプライバシー権があります。特に個人が特定できる形で写真を使用する場合、本人の許諾を得ることが原則です。イベント等で不特定多数の人が写る場合は、事前に写真撮影を行い広報物に使用する可能性があることを告知する、特定の個人が大きく写る場合は個別に許諾を得るなどの配慮が必要です。
- 写り込んだ他者の著作物: 写真の中に、他者が著作権を持つ美術品や看板、ポスターなどが写り込んでいる場合、その利用に制限が生じる可能性があります。写り込みの程度や、それが写真の主題となっているかなどによって判断が異なりますが、可能な限り写り込みを避けるか、個別に確認を行うのが安全です。
トラブルを回避するための実践的なポイント
デザイン素材に関する著作権や利用規約のトラブルを回避するために、NPO広報担当者として日頃から実践できることがあります。
- 利用規約の確認を習慣づける: 新しい素材サイトを利用する際や、今まで気にしていなかった素材の利用について、利用規約を確認することを習慣づけましょう。特に、商用利用、加工・改変、クレジット表記に関する箇所は注意深く読みます。
- 利用条件を記録しておく: ダウンロードした素材がどのサイトから入手したもので、利用規約上どのような条件(特にクレジット表記の有無や加工制限)が付与されていたかを簡単なメモとして残しておくと良いでしょう。後から確認が必要になった際に役立ちます。
- 疑わしい素材は使用しない: 著作権情報が不明確な素材や、正規の提供元ではないと思われるサイトで見つけた素材は、利用しない方が安全です。
- クレジット表記を正確に行う: 利用規約でクレジット表記が求められている場合は、指定された形式(例:「写真提供:〇〇」「Illustrator:〇〇」)で正確に表示します。表示場所(写真の近く、記事の末尾、サイトのフッターなど)についても指示があればそれに従います。
- 契約書や利用規約を大切に保管する: デザイナーとの契約書や、有償素材サイトの利用規約は、いつでも確認できるよう整理して保管しておきましょう。
- 迷ったら専門家に相談する: 著作権や利用規約に関して判断に迷う場合は、弁護士や著作権管理の専門家、あるいは信頼できるデザイナーに相談することも検討します。
まとめ
NPOの広報活動におけるデザイン素材の活用は、団体のメッセージを効果的に伝える上で非常に重要です。同時に、著作権や利用規約を正しく理解し遵守することは、団体の信頼を守るために欠かせない責任でもあります。
デザインに関する専門知識がない広報担当者の方も、この記事でご紹介した基本的な知識と実践的なポイントを押さえることで、安心してデザイン素材を利用できるようになります。利用規約の確認を習慣づけ、不明な点は安易に使用せず確認するという姿勢を持つことが、トラブルを未然に防ぐ最も効果的な方法です。
正しく素材を活用することで、法律や権利関係の心配をせずに、団体の活動を魅力的に発信することに集中できるようになります。これは、社会課題解決に向けて活動するNPOにとって、非常に大きな力となるはずです。