NPO広報担当者のための、予算がなくても始められるデザインプロジェクト企画・準備 実践ガイド
デザインは、NPOの活動内容や社会課題をより多くの人々に「伝わる」形にする強力なツールです。しかし、「デザインの知識がない」「予算が限られている」「何から始めたら良いか分からない」といった理由から、デザインの活用に踏み出せないNPO広報担当者の方も少なくないのではないでしょうか。
特に、外部のデザイナーに依頼する場合や、初めて本格的なデザイン制作に取り組む際には、「企画」と「準備」の段階が非常に重要になります。この段階を丁寧に進めることで、限られたリソースを最大限に活かし、より効果的なデザイン成果物を生み出すことが可能になります。
このガイドでは、デザイン知識や予算に不安があるNPO広報担当者の方々が、自信を持ってデザインプロジェクトを企画・準備できるよう、その具体的なステップと実践的なヒントをご紹介します。
なぜデザインプロジェクトの企画・準備が重要なのか
デザイン制作に取りかかる前に、なぜ企画・準備が欠かせないのかを理解しておくことは、その後のプロセスを円滑に進める上で大切です。主な理由は以下の通りです。
- 目的と目標の明確化: 何のためにデザインが必要なのか、達成したいことは何かを整理することで、デザインの方向性が定まり、成果につながりやすくなります。
- リソースの最適化: 予算、時間、関わる人のスキルといった限られたリソースをどこに集中させるべきかが明確になります。
- 関係者との共通理解: プロジェクトに関わるメンバー間や、もし外部に依頼する場合はデザイナーとの間で、認識のずれを防ぎ、スムーズなコミュニケーションが可能になります。
- 手戻りの防止: 仕様や方向性が固まっていない状態で制作を進めると、大幅な修正が発生し、時間やコストのロスにつながります。事前の準備でこれを最小限に抑えます。
デザインは単なる「見た目を整える」ことではなく、コミュニケーションの課題を解決し、目標達成を支援するための手段です。その手段を効果的に使うためには、しっかりとした「設計図」である企画・準備が必要不可欠なのです。
予算がなくても始められるプロジェクト企画のステップ
ここからは、デザインの知識や潤沢な予算がない状況でも実践できる、デザインプロジェクトの企画・準備の具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:プロジェクトの「目的」と「目標」を明確にする
何よりもまず、なぜ今、このデザインが必要なのかという根本的な問いに向き合うことから始めます。
- 目的: このデザインを通じて、最終的に何を実現したいですか?(例: 寄付を集めたい、ボランティアを増やしたい、事業の認知度を高めたい、イベントの参加者を増やしたい)
- 目標: その目的を達成するために、具体的に何を、どのくらいの数値で達成したいですか?(例: 半年間で寄付総額を〇〇円にする、イベント参加申込数を〇〇人にする、ウェブサイトの特定ページの閲覧数を〇〇%増やすなど)
もし具体的な数値目標(KPI: Key Performance Indicatorと呼ばれることもあります)の設定が難しくても、「〇〇な状態を目指す」「〇〇な反応を引き出したい」といった定性的な目標でも構いません。重要なのは、関係者間で目的と目標を共有し、デザインの良し悪しを判断する基準を持つことです。
ステップ2:ターゲットを深く理解する
誰にこのメッセージやデザインを届けたいのか、そのターゲットを深く理解することは、伝わるデザインを作る上で不可欠です。
- ターゲットは誰ですか?(例: 20代〜30代の学生・社会人、地域住民、企業の人事担当者、既存の寄付者など)
- その人たちの状況や関心は何ですか?(例: 社会貢献に関心はあるが、NPOとの関わり方が分からない、忙しい中で効率的に情報を得たい、信頼できる団体を探しているなど)
- その人たちは普段どのような情報収集をしていますか?(例: SNS、ニュースサイト、団体のウェブサイト、イベントへの参加など)
可能であれば、実際にターゲットとなる人々に話を聞いたり、アンケートを実施したりすることで、より具体的な人物像(ペルソナと呼ばれることもあります)を描くことができます。ターゲットの理解が深まるほど、彼らに響くメッセージやビジュアルを考えるヒントが得られます。
ステップ3:伝えるべき「メッセージ」を整理する
目的とターゲットが明確になったら、彼らに何を伝えたいのか、メッセージを整理します。
- コアメッセージ: このデザインで最も伝えたい、一つの重要なメッセージは何ですか?
- サポートメッセージ: コアメッセージを補強するために必要な情報はありますか?(例: 活動実績、具体的な支援方法、団体の特徴など)
- 含めるべき情報、含めない情報: 情報が多すぎると混乱させてしまいます。本当に必要な情報だけを厳選します。
- ストーリーテリングの視点: なぜこの活動をしているのか、誰が、どのように影響を受けているのか、といった物語の要素を入れると、感情に訴えかけ、共感を得やすくなります。
ターゲットに合わせた言葉遣いや専門用語の使用レベルも、この段階で検討します。簡潔で分かりやすい言葉を選ぶことが大切です。
ステップ4:アウトプットと必要なリソースを検討する
目的、ターゲット、メッセージが整理できたら、それを実現するためのデザイン成果物(アウトプット)の種類と、それに必要なリソースを具体的に検討します。
- 必要なデザイン成果物: チラシ、ポスター、ウェブサイト、SNS投稿画像、報告書、募金箱のデザインなど、最も効果的な媒体は何ですか?
- 予算: プロジェクト全体でかけられる予算はどのくらいですか?デザイン費だけでなく、印刷費、運用費なども含めて考えます。
- 納期: いつまでに完成させる必要がありますか?逆算してスケジュールを組み立てます。
- 誰が担当するか: 内製で進めるか、外部のデザイナーに依頼するか、あるいは両方を組み合わせるか。内製の場合、担当者のスキルや時間は十分か。外部依頼の場合、どのようなスキルを持ったデザイナーが必要か。
- 既存のデザイン資産: 過去に作成したロゴ、写真、イラスト、テンプレートなどで活用できるものはありますか?これらを再利用することで、コストや時間を節約できます。
この段階で、予算と希望するアウトプットに大きな乖離がないかを確認します。もし乖離がある場合は、アウトプットの範囲を見直したり、優先順位をつけたりして調整します。
ステップ5:簡易的な計画を立てる
企画した内容を実行に移すための大まかな計画を立てます。
- スケジュール: 各ステップ(企画、制作、確認、公開・配布など)にどのくらいの時間をかけるか、大まかなスケジュールを作成します。
- 担当者: 各作業を誰が担当するかを決めます。内製、外部依頼に関わらず、誰が最終的な判断を行うかも明確にしておきます。
- コミュニケーション方法: 関係者間やデザイナーとの情報共有をどのように行うか(メール、会議、オンラインツールなど)を決めておきます。
- リスクと対応策: 想定されるリスク(例: 予算超過、納期遅延、関係者の意見の対立など)を洗い出し、それに対する対応策を事前に考えておきます。
この計画は詳細である必要はありませんが、プロジェクトを前に進めるための道筋となります。計画があることで、途中で迷ったり、問題が発生した際にも冷静に対応しやすくなります。
予算がなくてもできる準備
予算が限られている場合でも、企画段階でできることはたくさんあります。これらの準備を丁寧に行うことで、たとえ内製であっても一定の品質を確保でき、外部に依頼する場合もスムーズかつコスト効率良く進めることができます。
- 情報収集とインプット:
- 良いデザイン、参考になる事例(特に他のNPOや社会課題解決の事例)を集める。
- 基本的なデザインの原則(色、フォント、レイアウトなど)に関する情報を得る。(このサイトの記事なども参考にしてください)
- ターゲットが普段どのような情報に触れているかリサーチする。
- ラフスケッチや構成案の作成:
- 手書きでも構わないので、最終的なデザイン成果物がどのような要素で構成され、どのように配置されるかのイメージを具体的に描いてみる。
- ウェブサイトであれば、ページの構成や必要なコンテンツを箇条書きにするなど、情報の構造を整理する。
- これにより、必要な要素や、デザインの方向性がより明確になります。
- 既存テンプレートや無料ツールの活用検討:
- Canvaのようなデザインツールには、様々な目的のテンプレートが豊富に用意されています。これらを活用することで、ゼロからデザインする必要がなくなります。
- 無料で使用できる写真素材サイトやイラスト素材サイトを探しておく。ただし、利用規約を必ず確認することが重要です。(著作権や利用規約については、別の記事も参考にしてください)
- デザイナーへの相談準備(オプション):
- もし将来的に外部のデザイナーに依頼する可能性がある場合は、上記の企画内容をまとめたものを「ブリーフ(オリエンテーション資料)」として整理する練習をしておく。
- これは、デザインを依頼する際にデザイナーに渡す指示書となり、目的、ターゲット、メッセージ、要望などを正確に伝えるための重要な準備となります。
これらの準備は、特別なスキルや高額なツールがなくても、時間と少しの努力で行うことができます。そして、この努力が、予算の多寡に関わらず、より効果的なデザイン成果物につながる土台となります。
企画・準備を成功させるためのポイント
最後に、企画・準備を進める上で意識しておきたいいくつかのポイントを挙げます。
- 関係者とのすり合わせを丁寧に行う: 特に組織内で複数の人が関わる場合、目的や方向性について事前にしっかりと話し合い、合意形成を図ることが重要です。後からの大幅な変更は、コストや遅延の原因となります。
- 最初から完璧を目指さない: 特に初めてのデザインプロジェクトの場合、全てを完璧に計画しようとすると、時間ばかりかかってしまい、前に進めません。まずは「このデザインで何を実現したいか」という核を固めることに集中し、計画は後から柔軟に見直すくらいの気持ちで良いでしょう。
- 小さく始めて試行錯誤する: いきなり大きなプロジェクトを始めるのが難しい場合は、まず小規模な制作物(例: SNSの投稿画像、簡単なチラシなど)からデザインを取り入れてみるのも良い方法です。成功体験を積み重ねることで、自信を持って次のステップに進むことができます。
まとめ
デザインは、NPOの活動を社会に広め、支援の輪を広げるための強力な手段です。デザインの知識や予算に不安があるという状況でも、企画と準備の段階を丁寧に進めることで、その効果を最大限に引き出すことができます。
本記事でご紹介したステップは、特別なスキルを必要とするものではありません。「なぜデザインが必要なのか」「誰に伝えたいのか」「何を伝えたいのか」といった基本的な問いに向き合い、情報を整理することから始まります。
ぜひ、このガイドを参考に、皆さまのNPO活動におけるデザインプロジェクトの一歩を踏み出してみてください。デザインの力を借りて、活動がより多くの人に届き、社会が少しでも良い方向に向かうことを願っています。