NPO広報担当者のための、依頼前に「なぜデザインが必要か」を整理する方法
非営利組織(NPO)の広報活動において、デザインは非常に重要な役割を果たします。団体の活動内容を伝え、共感を呼び、支援や参加を促す上で、デザインは強力なツールとなり得ます。しかし、デザインの専門知識がない広報担当者にとって、デザイナーへの依頼は時にハードルが高く感じられるかもしれません。特に「何から手をつければいいか分からない」「イメージがうまく伝わらない」といった悩みを抱える方もいらっしゃるでしょう。
デザイン依頼を成功させ、期待通りの成果を得るためには、単に「かっこいいもの」「おしゃれなもの」を作ってもらうのではなく、「なぜそのデザインが必要なのか」という根本的な目的を明確にすることが何よりも重要です。この目的整理は、デザイナーとのスムーズなコミュニケーションを可能にし、限られた予算と時間の中で最大限の効果を引き出すための鍵となります。
本記事では、NPO広報担当者がデザインを依頼する前に、「なぜデザインが必要か」をどのように考え、整理すれば良いのかについて解説します。
なぜデザイン依頼前に「目的」の整理が重要なのか
デザイナーにデザインを依頼する際、つい「こんなチラシを作りたい」「ウェブサイトをリニューアルしたい」といった「何を作るか」から考えてしまいがちです。しかし、その手前にある「なぜそれを作る必要があるのか」という目的が曖昧だと、以下のような問題が発生しやすくなります。
- デザイナーとの意図のずれ: 目的が不明確なまま依頼を進めると、デザイナーは過去の経験や一般的な知識に基づいて提案を行うことになります。その結果、出来上がったデザインが団体の本当に達成したいこととずれてしまう可能性があります。
- 手戻りの発生: 目的が曖昧だと、デザインの方向性が定まらず、何度も修正を繰り返すことになりがちです。これは時間とコストの無駄につながります。
- 期待した効果が得られない: デザインはあくまで目的を達成するための手段です。目的が不明確なデザインは、人目を引くだけで終わってしまい、本来達成したかった成果(寄付獲得、参加者増加など)に繋がらない可能性があります。
- 予算の非効率な使い方: 目的が定まっていれば、予算内で最も効果的なデザイン手法や媒体を選択できます。目的が曖昧だと、不要な要素にコストをかけてしまったり、本当に必要なデザインに予算をかけられなかったりすることがあります。
これらの問題を避けるためには、デザイン制作に取りかかる前に、しっかりと時間をかけて「なぜそのデザインが必要なのか」という目的を掘り下げて考えるプロセスが不可欠です。
「なぜデザインが必要か」を整理するための思考プロセス
目的を整理するためには、いくつかの問いについて深く考えることが有効です。ご自身の団体の状況や、依頼したいデザインの対象物に合わせて、以下の問いを一つずつ検討してみてください。
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現状の課題は何ですか?
- なぜ新しいデザインが必要だと感じていますか?
- 現在の広報物やウェブサイトにはどのような問題がありますか?(例: 情報が伝わりにくい、古く見える、誰にも見られていない、反応が薄いなど)
- このデザインで、具体的にどのような現状を改善したいですか?
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デザインを通じて、誰に、何を伝えたいですか?
- そのデザインの主なターゲットは誰ですか?(例: 潜在的な寄付者、ボランティア希望者、行政担当者、メディア、地域住民など)
- そのターゲットに、最も伝えたい重要なメッセージは何ですか?
- ターゲットに、デザインを見た後にどのような気持ちになってほしいですか?どのような行動をとってほしいですか?(例: 共感してほしい、活動に関心を持ってほしい、ウェブサイトを訪問してほしい、イベントに申し込んでほしい、寄付をしてほしいなど)
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デザインが完成した後の「成功」は何ですか?
- そのデザインが成功したと言える具体的な状態は何ですか?(例: チラシを見た人からの問い合わせが〇件増えた、ウェブサイトの特定ページの滞在時間が〇%向上した、イベントの参加申込者数が目標を達成した、広報物に対する肯定的なフィードバックが増えたなど)
- 成功をどのように測定しますか?(例: ウェブサイトのアクセス解析、アンケート、申込者数、寄付額、ソーシャルメディアでの反応数など)
- 測定した結果を見て、今後の広報活動やデザインにどう活かしたいですか?
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団体のどのような「らしさ」をデザインで表現したいですか?
- あなたの団体の活動理念や価値観は何ですか?
- 団体の強みや、他の組織との違いは何ですか?
- 団体の雰囲気やイメージはどのようなものですか?(例: 信頼感がある、親しみやすい、エネルギッシュ、落ち着いた、先進的など)
これらの問いに答えることで、デザインの「目的」が具体化され、単なる見た目の改善に留まらない、成果に繋がるデザインの方向性が見えてきます。
目的整理を実践する方法
一人で考えるだけでなく、団体の関係者(他の広報担当者、事業担当者、代表など)と共有し、話し合うことも非常に有効です。皆で共通認識を持つことで、よりぶれないデザイン制作が可能になります。
- 「デザイン依頼目的シート」の作成: 上記の問いをリストアップした簡単なシートを作成し、依頼したいデザインごとに書き込んでみましょう。
- ミニワークショップ: 関係者を集めて、付箋などを使って問いへの回答を出し合い、共有する場を持つことも有効です。
- 既存デザインのレビュー: 現在使用している広報物やデザインについて、「これは目的を達成できているか?」「できていないとしたら、なぜか?」といった視点で話し合ってみることも、新しいデザインの目的を考えるヒントになります。
これらのプロセスを通じて言語化された目的は、デザイナーへの依頼時に非常に役立つ情報となります。
整理した目的をデザイナーに伝える際のポイント
目的整理のプロセスを経て得られた情報をデザイナーに伝える際は、以下の点を意識しましょう。
- 具体的な言葉で伝える: 抽象的な表現(例:「いい感じに」「スタイリッシュに」)だけでなく、「〇〇という課題を解決するために」「ターゲットである△△さんに、□□という行動をとってもらいたい」といった具体的な言葉で目的を伝えましょう。
- 背景情報を提供する: 団体のミッション、活動内容、ターゲット層について説明し、なぜこのデザインが必要なのかという背景を共有することで、デザイナーはより深い理解に基づいて提案をすることができます。
- 共有できる資料を用意する: 目的整理のために作成したシートや議事録、参考になる既存の広報物などを提供すると良いでしょう。
目的をしっかりと共有することで、デザイナーは団体の課題や目標を理解し、最も効果的なデザイン提案を行うことができるようになります。これは、結果として質の高いデザイン成果物を得ることにつながります。
まとめ
デザインは、単なる装飾ではなく、NPOが社会的な目的を達成するための強力なコミュニケーションツールです。そして、その力を最大限に引き出すためには、デザイン制作に取りかかる前に「なぜデザインが必要なのか」という目的を明確にすることが欠かせません。
本記事で紹介した思考プロセスや方法は、デザイン知識がないNPO広報担当者の方でも実践できるものです。目的をしっかりと整理し、デザイナーとの建設的なコミュニケーションを築くことで、あなたの団体の活動をより多くの人に「伝わる」デザインを実現してください。この一歩が、ソーシャルデザインプロジェクトの成功に繋がるはずです。