NPO広報担当者のための、誰でもできる!伝わる図解・インフォグラフィックの基本
NPOの広報活動において、事業内容や活動成果、あるいは社会課題の現状といった情報は、時として複雑で多岐にわたります。こうした情報を文字だけで伝えようとすると、読者が内容を理解しきれなかったり、途中で読むのをやめてしまったりすることがあります。
そこで有効な手段の一つとなるのが「図解」や「インフォグラフィック」の活用です。これらは、複雑な情報を視覚的に整理し、分かりやすく伝えるためのデザイン手法です。デザインに専門知識がないNPO広報担当者の方でも、基本的な考え方と簡単なステップを踏めば、伝わる図解・インフォグラフィックを作成することができます。
この記事では、NPO活動における図解・インフォグラフィックの活用シーンから、伝わるデザインを作成するための基本的な考え方、そして非デザイナーでも実践できる作成ステップをご紹介します。
図解・インフォグラフィックとは何か? NPO活動での活用シーン
図解やインフォグラフィックとは、データや情報、知識を視覚的に表現したものです。グラフ、図、イラスト、アイコン、テキストなどを組み合わせて、伝えたいメッセージをより分かりやすく、印象的に伝えます。
NPO活動においては、以下のような様々な場面で図解・インフォグラフィックが役立ちます。
- 事業内容・活動プロセスの説明: 団体の活動がどのような流れで行われているのか、関係者がどう連携しているのかを図で示すことで、初めての方にも全体像を理解してもらいやすくなります。
- 活動成果(数字)の報告: 支援者の数、寄付金の用途、達成目標など、具体的な数字をグラフやアイコンで視覚化することで、活動の実績や影響力を効果的に伝えることができます。
- 社会課題の背景説明: 解決しようとしている社会課題がどのような状況にあるのか、関連するデータや統計情報を分かりやすく示すことで、問題意識の共有を深めることができます。
- 団体の組織図・関係性: 団体の内部構造や、連携している外部組織との関係性を図で示すことで、信頼性や透明性を高めることに繋がります。
- 資金の流れ説明: 収支報告や寄付金の具体的な使途をシンプルな図で示すことで、支援者への説明責任を果たすと共に、安心して寄付できる団体であることをアピールできます。
- イベントのタイムライン・手順: イベントのスケジュールや参加者への手順を視覚的に示すことで、混乱を防ぎ、スムーズな運営を助けます。
これらの活用例からもわかるように、図解・インフォグラフィックは、活動報告書、ウェブサイト、SNS投稿、広報チラシ、説明会資料など、様々な広報ツールで効果を発揮します。
伝わる図解・インフォグラフィックのための3つのステップ
デザインの専門知識がなくても、以下の3つのステップを意識することで、伝わる図解・インフォグラフィックを作成することができます。
ステップ1:情報を整理し、核となるメッセージを明確にする
まず最初に、図解やインフォグラフィックに盛り込みたい「情報そのもの」を徹底的に整理します。
- 何を伝えたいか?: 一番重要なメッセージ、あるいは読者に何をしてほしいのか(理解してほしい、共感してほしい、行動してほしい)を明確にします。
- 誰に伝えたいか?: 読者はどのような人たちか? その人たちの予備知識や関心事を考慮します。
- 情報を構造化する: 伝えたい情報を箇条書きにしたり、関連性のあるものをグループ化したり、時系列で並べたりして、情報の構造を整理します。情報の要素間の関係性(原因と結果、全体と部分、比較など)を把握します。
- 情報を絞り込む: 全ての情報を詰め込む必要はありません。最も伝えたいメッセージを強調するために、不要な情報は思い切って削ぎ落とします。情報量が多すぎると、かえって分かりにくくなってしまいます。
このステップが最も重要です。情報が整理されていないと、どれだけ見た目を整えても伝わるデザインにはなりません。
ステップ2:表現方法を選ぶ(図解の種類を知る)
整理された情報と核となるメッセージに基づいて、最も適した視覚的な表現方法を選びます。様々な種類の図解やインフォグラフィックがありますが、非デザイナーの方が始めやすい基本的なものをいくつかご紹介します。
- プロセス図・フロー図: ある事柄がどのような順序や段階を経て進むのかを示すのに適しています。例:活動への参加方法、支援の流れ、事業の実施ステップ。
- 構成図・組織図: 全体と部分の関係性や、要素間の繋がりを示すのに適しています。例:団体の部署構成、プロジェクトのチーム体制、社会課題を構成する要素。
- 比較図・対比図: 二つ以上の事柄を比較したり、変化を示したりするのに適しています。例:活動前と活動後の変化、複数の支援方法のメリット比較。
- タイムライン: 歴史的な流れや、特定の期間の出来事を時系列で示すのに適しています。例:団体の設立からの歩み、プロジェクトの進行スケジュール。
- マップ: 地域や地理的な情報を関連付けて示すのに適しています。例:活動拠点、支援対象地域の分布。
- シンプルなグラフ: 数字の比較や推移を示すのに適しています。棒グラフ、円グラフ、折れ線グラフなど、最も伝えたいことが分かりやすい形式を選びます。
伝えたい情報の性質に合わせて、これらの基本的な表現方法の中から最適なものを選びます。複数の種類を組み合わせることも可能です。
ステップ3:デザインの基本要素で視覚化する
選んだ表現方法に従って、整理した情報を視覚的に配置していきます。ここでは、プロのデザイナーのような高度な技術は必要ありません。以下の基本的なポイントを意識するだけで、見違えるほど伝わりやすくなります。
- レイアウト(配置): 情報をグループごとにまとめ、関連性の強い要素を近くに配置します。情報の流れ(左から右、上から下など)を意識して要素を並べます。要素と要素の間には適度な余白を設けると、情報が詰まりすぎず読みやすくなります。
- 色: 団体のロゴやブランドカラーを基調に、使う色の数を絞ります。情報を区別したり、特に重要な部分を強調したりするために色を使いますが、派手な色や多すぎる色は避け、落ち着いたトーンを心がけます。色の使いすぎは逆効果です。
- フォント(書体): 見出し、本文、注釈など、情報の重要度に応じてフォントのサイズや太さを変えることで、情報の階層が分かりやすくなります。装飾的なフォントよりも、多くの人が読み慣れている一般的なフォント(ゴシック体や明朝体など)を選び、読みやすさを最優先します。使用するフォントの種類は2〜3種類に絞ると統一感が出ます。
- アイコン・イラスト: テキストだけでは伝わりにくい情報を補足したり、視覚的な興味を引いたりするために、シンプルなアイコンやイラストを活用します。インターネット上には、NPO活動でも使いやすい無料のアイコン素材サイト(例:FLAT ICON DESIGN、ICOOON MONOなど)があります。全体のトーンに合わせて、統一感のあるスタイルの素材を選ぶと良いでしょう。
- グラフの整形: 既存のグラフ作成機能(ExcelやGoogleスプレッドシートなど)で作成したグラフも、このステップで色やフォントを調整し、団体のトーンに合わせることで、より伝わりやすくなります。グラフのタイトルや凡例は分かりやすく簡潔にします。
これらのデザイン要素は、情報を整理した構造に合わせて配置していく「入れ物」のようなものです。情報構造をしっかり決めた上で、分かりやすく見せるための工夫として活用します。
簡単なツールで実践!非デザイナーにおすすめの作成方法
高度なデザインソフトがなくても、身近なツールを使って図解・インフォグラフィックを作成することは十分可能です。
- Canva: 豊富なテンプレートと直感的な操作性が魅力のオンラインデザインツールです。インフォグラフィック用のテンプレートも多数用意されており、図形、アイコン、写真素材なども豊富に揃っています。無料プランでも基本的な機能は利用できます。ステップ1と2で整理した情報を元に、テンプレートを選んで内容を差し替えていく方法がおすすめです。
- PowerPoint / Keynote: プレゼン資料作成ソフトですが、「SmartArt」機能を使えば、組織図、階層図、リスト、プロセス、集合などの図を簡単に作成・編集できます。ステップ2で選んだ表現方法に合うSmartArtを選び、テキストを挿入するだけで、基本的な図解が完成します。グラフ機能も使いやすいです。
- Google スライド / Google 図形描画: これらの無料オンラインツールでも、基本的な図形やテキストボックスを組み合わせて簡単な図解を作成できます。共同編集しやすい点もNPOにとってはメリットです。
これらのツールを活用する際も、上記のステップ1〜3で解説した「情報整理」「表現方法選択」「デザイン要素の意識」を忘れないことが重要です。ツールはあくまで手段であり、最も大切なのは「何をどう伝えるか」という情報設計の部分です。
デザイナーに依頼する場合のヒント
自分たちだけでは難しい、より専門的で複雑なインフォグラフィックが必要な場合は、デザイナーに依頼することも検討できます。その際も、ステップ1でご紹介した「情報の整理」が非常に重要になります。
デザイナーは、与えられた情報を基に最適な視覚表現を提案し、プロの技術で質の高いデザインを作成してくれます。しかし、依頼する側が伝えたい情報の核や目的を明確に整理できていないと、期待通りの成果物を得ることは難しくなります。
依頼する際は、以下の点をデザイナーに具体的に伝えると良いでしょう。
- 図解・インフォグラフィックを作成する目的: なぜそれが必要なのか? 誰に何を伝えたいのか?
- 盛り込みたい情報: ステップ1で整理した、構造化された情報やデータ。
- 希望する表現方法: ステップ2を参考に、どのような種類の図解が適していると思うか(あくまで案として)。
- 団体のブランドカラーやスタイル: 使用してほしい色や、既存の広報物のトーン。
- 参考にしたいイメージ: 他の団体や企業が作成したインフォグラフィックなどで、イメージに近いものがあれば共有します。
情報の整理は、デザイナーとのスムーズな協働の第一歩となります。
まとめ:デザインは情報を「伝わる」形にするツール
図解やインフォグラフィックは、NPOの複雑な活動や成果を、より多くの人に、より分かりやすく伝えるための強力なツールです。デザイン知識がないと感じているNPO広報担当者の方でも、「情報を整理する」「適切な表現方法を選ぶ」「基本的なデザイン要素を意識する」という3つのステップを踏むことで、十分に伝わるものを作成できます。
ご紹介したCanvaやPowerPointといった身近なツールを活用し、まずは小さな情報から図解化に挑戦してみてはいかがでしょうか。デザインは単なる装飾ではなく、伝えたい情報を最も効果的な形で届けるための手段です。ぜひ、皆様の活動をより魅力的に伝えるために、図解・インフォグラフィックの活用を始めてみてください。