NPO広報担当者のための、地域に「伝わる」デザインの実践的なコツ
はじめに
地域に根ざして活動されているNPO法人にとって、広報活動は非常に重要です。自分たちの活動を地域住民の方々に知ってもらい、理解や共感を深め、参加や支援へと繋げていくためには、メッセージをいかに「伝わる」形にするかが鍵となります。
しかし、地域の方々は年齢層も背景も多様であり、情報への接し方も様々です。ウェブサイトだけではリーチしきれない方もいれば、回覧板や地域の掲示板、口コミといったアナログな情報チャネルが依然として有効な場合もあります。こうした多様な情報環境の中で、デザインの専門知識がないNPO広報担当者が、地域住民の方々に活動の魅力や必要性を効果的に伝えるデザインを実践することは、時に難しさを伴うかもしれません。
この記事では、地域NPOの広報担当者が、限られたリソースの中でも地域住民の方々に活動内容を効果的に「伝える」ためのデザインの考え方と、実践的なコツをご紹介します。デザインは単なる見た目の装飾ではなく、地域とのコミュニケーションを円滑にし、活動への理解や参加を促すための強力なツールとなり得ます。
地域に「伝わる」デザインとは何か
地域住民の方々に活動内容を伝えるデザインを考える上で最も重要なのは、「相手に寄り添う」という視点です。デザインの専門用語で言えば「ターゲット設定」にあたりますが、地域の広報においては、単に年齢層や性別で区切るだけでなく、その地域特有の文化、習慣、情報取得のスタイルなどを考慮することが欠かせません。
地域に「伝わる」デザインとは、具体的には以下のような要素を含みます。
- 親しみやすさ: 専門用語を避け、日常会話に近い平易な言葉遣いを心がけます。視覚的にも、威圧感のない、安心感を与えるトーンや色使いを選びます。
- 分かりやすさ: 最も伝えたい情報(日時、場所、内容、参加方法など)がすぐに理解できるよう、情報を整理し、視覚的に強調します。文章だけでなく、写真やイラストを効果的に活用します。
- アクセスしやすさ: チラシであれば文字サイズを大きくしたり、コントラストをはっきりさせたりするなど、誰もが読みやすい配慮をします。ウェブサイトであれば、スマートフォンの表示に最適化されているか確認します。
- 信頼性: 団体名や連絡先、ウェブサイトのURLなどが明確に記載されていることは基本ですが、地域での活動実績を示す写真や、関わっている地域住民の方々の顔が見えるデザインは、信頼感を高めることに繋がります。
- 地域性: その地域ならではの風景やシンボル、言葉などをデザインに取り入れることで、地域住民の方々にとってより身近で、「自分たちのこと」だと感じてもらいやすくなります。
これらの要素を踏まえ、デザインをどのように実践に活かしていくかを見ていきましょう。
実践的なデザイン手法:具体的な広報物への応用
地域NPOの広報活動でよく利用される広報物ごとに、デザインの具体的なコツをご紹介します。
チラシ・ポスター
回覧板や地域の掲示板、店舗への掲示など、オフラインでの情報伝達に重要な役割を果たします。
- 掲示場所を考慮する: 屋外の掲示板か、室内の回覧板か、駅の構内かなど、見る環境によって適切な文字サイズやデザインの密度が変わります。遠くからでも目を引くか、近くでじっくり読まれるか。
- 重要な情報を最優先で: イベント告知であれば、「いつ」「どこで」「何を」「どうやって参加するか」を最も目立つように配置します。
- 読みやすいフォントを選ぶ: 装飾的なフォントよりも、教科書体やゴシック体など、誰もが読み慣れているフォントを選びます。特に高齢者の方も読む可能性が高い場合は、大きめの文字サイズ(目安として本文10pt以上、見出しはさらに大きく)と、行間を十分に確保することが重要です。
- 写真やイラストで親近感を: 地域の風景や、活動に参加している地域住民の方々の写真(許諾を得た上で)、あるいは温かみのある手書き風のイラストなどは、見る人に安心感と親近感を与えます。
- 「次にどうしてほしいか」を明確に: 参加申し込みの方法、問い合わせ先、ウェブサイトへの誘導など、読み終えた人が次にとるべき行動を分かりやすく示します。QRコードを添えるのも有効です。
ウェブサイト・SNS
オンラインでの情報発信は、団体の信頼性を高め、より詳細な情報を提供するために不可欠です。
- スマートフォン対応は必須: 地域住民の方々も、多くの方がスマートフォンで情報収集をしています。ウェブサイトは必ずスマートフォンでの表示に最適化されている必要があります。
- 地域の情報チャネルとの連携: 自治体のウェブサイトや、地域の情報発信に特化したSNSアカウント、回覧板アプリなどがあれば、デザイン(例えばバナー画像や紹介文)をそれらの形式に合わせて作成し、連携を模索します。
- 写真で地域を「見せる」: 活動風景の写真には、地域のランドマークや、実際に活動に参加している方々の顔を積極的に使用します。ストックフォトよりも、リアルな活動の様子が伝わる写真が地域の方々の心を掴みます。
- シンプルで分かりやすい構成: 高度なデザインやアニメーションは不要です。必要な情報(活動内容、実績、アクセス、問い合わせ先など)にすぐにたどり着ける、迷わないデザインが地域住民にとっては重要です。
広報誌・ニュースレター
定期的な情報提供ツールとして、関係性の構築に役立ちます。
- 地域の出来事と関連付ける: 記事内容に、地域の季節のイベントや話題と関連する情報を含めると、読者の関心を引きやすくなります。
- 読者の声を掲載する: 実際に活動に参加した方や、支援者の方の感想やインタビューを掲載すると、共感を生み、信頼性を高めます。その際、顔写真とともに掲載すると、より親近感が湧きます。(掲載許可は必ず取得します。)
- 読み進めたくなるレイアウト: 見出しを工夫したり、小見出しを多く使ったり、適度に写真や図を配置したりすることで、情報量が多くても飽きさせずに読み進めてもらえるよう配慮します。
限られた予算でのデザイン実践
「デザインにお金をかける余裕がない」と感じているNPOも少なくないでしょう。しかし、予算が限られていても、デザインの工夫で成果を出すことは十分に可能です。
- 無料・安価なデザインツールの活用: Canvaのようなオンラインデザインツールは、デザインの知識がなくても、プロがデザインしたようなテンプレートを活用して質の高いチラシやSNS画像を簡単に作成できます。無料プランでも十分に活用できる機能が多くあります。
- 地域内のデザイナーや学生との連携: 地域のデザイン会社に相談してみたり、デザイン系の学部がある大学に問い合わせて、学生のボランティアやインターンシップとしてデザイン協力を募ることも一つの方法です。地域のつながりを活かせるかもしれません。
- 既存デザイン資産の再利用とルール化: 以前作成したデザインデータや写真などを整理し、活動内容に合わせて部分的に修正して再利用します。団体のロゴや基本色、使用するフォントなどのルール(デザインガイドラインの簡易版)を定めておくと、担当者が変わってもデザインに統一感が出やすくなります。
- 「デザイン思考」を取り入れる: 高度なデザインスキルがなくても、「誰に伝えたいか」「何を伝えたいか」「どうすれば伝わるか」を深く考える「デザイン思考」のプロセスは実践できます。地域住民の方々に直接話を聞いてみたり、実際に作成したチラシを見てもらって感想を聞いたりするなど、受け取り手の視点を取り入れるだけでも、デザインの質は向上します。
ケーススタディ:地域NPOのデザイン改善事例(架空)
ある地域で高齢者向けの交流サロンを運営するNPO法人Aは、参加者の減少に悩んでいました。広報は回覧板のモノクロチラシと、地域のミニコミ誌への掲載が中心でしたが、「活動内容がよくわからない」「敷居が高い」といった声が聞かれました。
そこで、NPO法人Aはデザインの改善に取り組みました。
- ターゲット理解の深化: サロンの主な利用者層である70代以上の高齢者に、普段どのような情報源から情報を得ているか、どのような情報に興味があるかをヒアリングしました。その結果、回覧板や地域の掲示板、そして近所の方からの口コミが有力であることが再確認されました。
- チラシデザインの変更:
- 文字サイズを大幅に大きくし、ゴシック体で読みやすくしました。
- 色数を増やし、温かみのあるオレンジや黄色を基調としました。
- 活動内容を箇条書きにし、具体的なプログラム(例: 健康体操、歌の会、お茶会)を分かりやすく記載しました。
- 実際にサロンで楽しそうに交流している高齢者の方々の写真(許諾済み)を大きく掲載しました。
- 問い合わせ先の電話番号を大きく目立つように表示し、担当者の名前も添えました。
- 掲示場所の拡大と声かけ: 地域内の集会所や病院、商店街など、高齢者がよく利用する場所にポスター掲示の協力を依頼しました。また、サロン利用者や地域のボランティアにチラシを手渡し、直接声かけをしてもらうよう依頼しました。
- ミニコミ誌掲載情報の見直し: ミニコミ誌に掲載する情報を、サロンの雰囲気や参加者の声に焦点を当てた短いコラム形式に変更し、活動風景の写真を添えました。
これらのデザイン改善と配布方法の工夫の結果、サロンへの問い合わせや新規参加者が増加しました。「チラシを見て、楽しそうだから来てみた」「写真のおじいさんが知り合いだったから、安心して来れた」といった声が聞かれるようになり、デザインが活動への参加を促す上で有効であったことが確認されました。
まとめ
地域NPOの広報担当者にとって、デザインは専門家だけのものではなく、地域住民の方々との関係性を深め、活動をより効果的に伝えるための実践的なツールです。
完璧なデザインを目指す必要はありません。まずは、「この情報は誰に、何を、どのように伝えたいのか?」という基本的な問いを大切にし、受け取る地域住民の方々の視点に立って、分かりやすさ、親しみやすさ、アクセスしやすさを意識することから始めてみましょう。
チラシ一枚、ウェブサイトのトップページの画像一つでも、デザインに少し工夫を凝らすだけで、地域の方々への伝わり方は大きく変わる可能性があります。今回ご紹介したような実践的なコツや、無料のデザインツールなどを活用しながら、ぜひ、皆さんの活動を地域に「伝わる」デザインで届けてみてください。デザインの力は、きっと地域との良好なコミュニケーションと、活動の広がりを後押ししてくれるはずです。