NPO広報担当者のための、デザイン内製でよくある失敗と効果的な改善策
はじめに
近年、NPOをはじめとする非営利組織において、広報物のデザインを内製するケースが増えています。デザインツールが進化し、比較的容易にプロフェッショナルな見た目のチラシやSNS投稿を作成できるようになりました。これは、限られたリソースの中で効果的な情報発信を行いたいと考える多くのNPO広報担当者にとって、大変有効な手段です。
一方で、デザインの専門的な知識がないまま内製を進めることで、意図せずデザインがうまくいかない、あるいは期待した効果が得られないといった「失敗」に直面することもあります。例えば、「見た目はそれっぽいけれど、どうもメッセージが伝わらない」「時間がかかった割に、あまり反響がない」「後でデータを探しにくい」など、様々な課題が生じ得ます。
この記事では、NPO広報担当者がデザインを内製する際によく陥りがちな失敗事例をいくつか取り上げ、それぞれの原因と、今日から実践できる効果的な改善策について解説します。デザインを単なる「見た目を整える作業」ではなく、活動の目的を達成するためのツールとして最大限に活用するために、内製時の落とし穴を知り、着実に品質を向上させていきましょう。
失敗1: 情報が整理されておらず、メッセージがぼやけてしまう
原因
- ターゲットと目的の不明確さ: 誰に、何を伝えたいのかが曖昧なままデザイン作業に入ってしまう。
- 情報の優先順位付けができていない: 伝えたい情報をすべて詰め込もうとしてしまい、最も重要なメッセージが埋もれてしまう。
- 構造化されていない情報: 情報を論理的な流れで整理せず、箇条書きを並べただけになっている。
効果的な改善策
- デザインに着手する前に、必ず「誰に」「何を伝えたいか」を明確にする: ターゲット層の特性(年齢、関心、デザインを見る状況など)を具体的に想定し、そのターゲットに「とってほしい行動」や「感じてほしいこと」を設定します。
- 情報の優先順位をつける: 伝えたい情報の中から、最も重要なメッセージ、次に重要な情報、補足情報といった形で優先順位をつけます。最優先の情報は、ぱっと見た瞬間に目に飛び込んでくるように、大きく扱う、色を変えるなどの工夫が必要です。
- ワイヤーフレームを作成する: 簡単な手書きでも構いませんので、情報をどこに配置するか、どのような順序で読ませたいかといった「情報の設計図」を先に描いてみます。これにより、情報の過不足や流れの悪さを発見しやすくなります。(ワイヤーフレームとは、デザインのレイアウトや要素配置を示すためのシンプルな図のことです。)
失敗2: 見た目ばかり気にしてしまい、読みにくいデザインになる
原因
- レイアウトの基本を知らない: 要素をただ配置するだけで、余白の取り方や配置のバランスを考慮していない。
- フォントの使い方を誤る: 可読性の低いフォントを選んだり、複数のフォントを無計画に使ったりする。文字サイズや行間が不適切。
- 色の使い方を誤る: 配色がごちゃごちゃしていたり、文字と背景の色のコントラストが低すぎて読みにくくなっている。
効果的な改善策
- 「余白」を意識する: 要素と要素の間や、紙面の端と要素の間に適切な余白を取ることで、デザインが見やすくなります。情報を整理し、要素をグループ化して配置すると、自然と余白が生まれます。
- フォントは最大でも2〜3種類に絞る: 本文、見出しなど、用途に応じてフォントを使い分けますが、種類を絞ることでデザインに統一感が生まれます。本文には、ゴシック体や明朝体といった読みやすいフォントを選び、適切な文字サイズと行間を設定します。
- 色の使い方は控えめに、コントラストを意識する: デザインに使用するメインカラー、サブカラー、アクセントカラーを決め、それに沿って配色します。文字と背景の色は、十分なコントラスト(明度差)がある組み合わせを選び、特に高齢者や色覚特性のある方にも配慮したアクセシブルなデザインを心がけます。(アクセシブルなデザインについては、別の記事で詳しく解説しています。)
失敗3: フリー素材の利用で著作権侵害のリスクを負う、または素材選びに時間がかかりすぎる
原因
- 著作権や利用規約の理解不足: フリー素材だからといって、無条件に何にでも使えるわけではないことを知らない。商用利用の可否、クレジット表記の必要性、加工の制限など、利用規約を確認していない。
- 素材サイトの種類や探し方を知らない: 適切な素材を見つけるために、どのようなサイトがあり、どのように検索すれば効率的かを知らない。
効果的な改善策
- 信頼できるフリー素材サイトを利用し、利用規約を必ず確認する: Creative Commons Zero (CC0) の素材を多く扱うサイトや、利用規約が分かりやすいサイトを選びます。利用する素材のライセンス形態(CC0、CC BYなど)を確認し、クレジット表記が必要な場合は必ず表示します。
- 複数の素材サイトを知っておく: 写真、イラスト、アイコンなど、用途に応じた専門サイトを知っておくと、効率的に素材を探せます。例えば、UnsplashやPexelsは写真、IllustACやirasutoya(利用規約要確認)はイラスト、Flaticonはアイコンなどです。
- 具体的なキーワードで検索する: 抽象的なキーワードではなく、「高齢者 笑顔」「子ども 読書 屋外」のように具体的に検索すると、イメージに近い素材が見つかりやすくなります。
失敗4: 作成物のデータ管理が杜撰で、後々の活用や修正に手間がかかる
原因
- ファイル名のルールがない: 複数のファイルが作成され、どれが最新版で、どのような内容のファイルなのかが分かりにくい。
- バージョン管理をしていない: 修正を重ねるうちに、以前のバージョンに戻したい場合に困ってしまう。
- クラウドストレージを有効活用できていない: チーム内でファイルを共有したり、どこからでもアクセスできるようにしたりする方法が定まっていない。
効果的な改善策
- ファイル名のルールを定める: 例:「YYYYMMDD_媒体_件名_vXX.拡張子」(例: 20231027_チラシ_イベント告知_v01.canva)。日付、媒体(チラシ、SNSなど)、内容、バージョン番号を明記すると分かりやすくなります。
- バージョン管理を徹底する: 大きな修正を加えるごとにバージョン番号を更新し、元のファイルを上書きしないようにします。Canvaなどのツールによっては、自動的にバージョン履歴が保存される機能もありますが、手動での管理も重要です。
- クラウドストレージを活用し、共有ルールを決める: Google Drive, Dropbox, OneDriveなどのクラウドストレージを利用し、フォルダ構造や共有設定のルールをチーム内で定めます。これにより、複数の担当者がデザインファイルにアクセスし、共有しやすくなります。
失敗5: 他のメンバーからのフィードバックをうまく活用できない、またはフィードバックを求めない
原因
- デザインへのフィードバック方法を知らない: デザインに対して「なんとなく良い/悪い」といった抽象的なフィードバックしかもらえず、改善点が見つけにくい。
- 一人で抱え込んでしまう: 外部からの意見を求める機会を設けない。
効果的な改善策
- フィードバックを求める際に、具体的な視点や質問を提示する: 例えば、「この見出しはターゲットに響くか」「メッセージの優先順位は分かりやすいか」「全体のデザインは団体の雰囲気に合っているか」など、確認したい点を具体的に伝えます。これにより、受け取る側も的確なフィードバックをしやすくなります。
- 定期的にデザインレビューの機会を設ける: デザインが完成に近づく前に、他のメンバーや関係者に見てもらい、意見をもらう時間を設けます。複数の視点から客観的な意見を聞くことで、自分では気づかなかった改善点を発見できます。
- 建設的なフィードバックを促す雰囲気を作る: フィードバックは、デザインをより良くするための貴重な意見であることをチーム全体で理解し、ポジティブな姿勢で受け止める文化を育みます。
おわりに
デザインの内製は、時間や予算が限られるNPOにとって非常に有効な手段ですが、専門知識がないために起こりがちな失敗を避けるための知識と工夫が必要です。ご紹介した失敗事例と改善策は、どれもすぐに実践できるものばかりです。
デザインは単なる見た目づくりではなく、活動の目的を達成し、多くの人々にメッセージを届けるための強力なツールです。これらの改善策を取り入れることで、皆さんが作成されるデザインが、より「伝わる」ものとなり、団体の活動を一層前進させる一助となることを願っております。
デザイン内製に挑戦する中で壁にぶつかることもあるかもしれませんが、少しずつ知識と経験を積み重ねることで、必ずデザインの質を高めていくことができます。この情報が、皆さんの内製デザインスキル向上の一助となれば幸いです。