NPO広報担当者のための、印刷物作成後の入稿と業者選定ガイド
印刷物のデザインが完成しても、活動に活用できるまでには「印刷」という次のステップがあります。特にNPOの広報担当者の方々にとっては、デザイナーから受け取ったデータをどのように印刷会社に渡し、数ある業者の中からどこを選べば良いのか、戸惑うこともあるかもしれません。
この記事では、デザイン知識があまりないNPO広報担当者の方々に向けて、印刷物の「入稿」と「業者選定」という、デザイン完成後の重要なプロセスについて、失敗しないための実践的なポイントを分かりやすく解説します。
印刷物入稿とは何か、なぜ準備が必要か
デザインデータは、そのままでは多くの一般的なプリンターで出力できる形式ではない場合が多いです。印刷会社で高品質な印刷を行うためには、専用の形式で、いくつかのルールに沿ってデータを用意する必要があります。この、印刷用のデータを印刷会社に渡すプロセスを「入稿」と呼びます。
入稿準備がなぜ重要かというと、データに不備があると、せっかくのデザインが意図した通りに印刷されなかったり、印刷会社での修正作業に費用がかかったり、最悪の場合は納期が遅れてしまうといったトラブルにつながる可能性があるからです。
入稿データの主なチェックポイント
デザイナーにデザインを依頼した場合、多くの場合は印刷に適したデータ形式で納品されます。しかし、自分でデザインツールを使って作成した場合や、デザイナーから受け取ったデータを確認する際にも、いくつか基本的なチェックポイントを知っておくと安心です。
- データ形式: 印刷会社が最も推奨するのはPDF形式です。これは、どの環境で見てもレイアウトやフォントが崩れにくい、印刷に適した汎用性の高い形式だからです。他の形式(Illustratorデータ、Photoshopデータなど)でも入稿可能な場合もありますが、PDFでの入稿が最もトラブルが少ない傾向にあります。
- カラーモード: 印刷物の色は、通常「CMYK」というカラーモードで表現されます。これはシアン(Cyan)、マゼンタ(Magenta)、イエロー(Yellow)、ブラック(Key plate)の4色のインクを混ぜ合わせて色を作る方式です。パソコンの画面で見る色は「RGB」(レッド、グリーン、ブルー)という光の三原色で表現されており、RGBで作成されたデータをそのままCMYKで印刷すると、画面で見た色と印刷される色が変わってしまうことがあります。データがCMYKになっているか確認しましょう。
- 解像度: 印刷品質を決定づける重要な要素が解像度です。一般的な商業印刷では、画像は原寸で300dpi(dots per inch)以上が必要とされます。これより低いと、印刷されたときに画像が粗く、ギザギザに見えてしまいます。
- トンボと塗り足し: これは印刷特有の概念で、非デザイナーの方には少し分かりにくい部分かもしれません。
- トンボ: 印刷物を正確なサイズに断裁するための目印です。十字の線で示されます。
- 塗り足し: 背景色や写真などを、仕上がりサイズの端まで配置する際に、仕上がりサイズよりも外側に3mm程度広げておく部分です。印刷後に紙を断裁する際、わずかなズレで紙の色(白)が出てしまうのを防ぐために必要です。
デザイナーに依頼してデザインデータを受け取る際は、これらのポイント(PDF形式、CMYKカラー、適切な解像度、トンボ・塗り足しの有無)について確認しておくと良いでしょう。自分で作成する場合は、使用しているデザインツールの「印刷用データ書き出し」機能などを活用し、これらの設定を確認してください。
印刷業者の種類と選び方
デザインデータが準備できたら、次に印刷を依頼する業者を選びます。印刷業者には様々な種類があり、それぞれ得意なことや料金体系が異なります。NPOの活動内容や予算、求める品質に合わせて適切な業者を選ぶことが重要です。
主な印刷業者の種類:
- オンライン印刷会社:
- メリット: 比較的安価、24時間いつでも発注可能、多様な商品ラインナップ、納期が明確。
- デメリット: サポートがオンラインやメール中心で対面相談が難しい、用紙の種類や特殊加工に限りがある場合がある、データの不備があった場合のコミュニケーションに時間がかかることも。
- NPOでの活用: 予算が限られている場合、一般的なチラシや名刺、パンフレットなど、大量かつ定期的に印刷する場合に適しています。データ作成ルールをしっかり確認すればスムーズに進められます。
- 地元の印刷会社:
- メリット: 対面で相談できる、データ作成の相談に乗ってくれる、小回りが利く、地域に根ざした関係を築ける。
- デメリット: オンライン印刷より価格が高めな傾向がある、営業時間内に対応が必要。
- NPOでの活用: 特殊な用紙を使いたい、少部数だけ印刷したい、デザインデータに不安がある、初めての印刷で担当者に相談しながら進めたい場合などに心強い味方になります。地域活動をしているNPOなら、協力関係を築くことで継続的なサポートを得られる可能性もあります。
- 専門分野に特化した印刷会社:
- メリット: 特定の商品(例えば、報告書、書籍、大判ポスターなど)に関して高い技術やノウハウを持つ。
- デメリット: 取り扱い商品が限られる、価格が高めな場合も。
- NPOでの活用: 年次報告書など、特に品質にこだわりたい重要な印刷物で検討できます。
業者選定の際は、まず「何を(チラシ、報告書など)、どれくらい(部数)、いつまでに必要か」を明確にし、複数の業者から見積もりを取ることをお勧めします。見積もりには、印刷部数、用紙の種類、色数(フルカラーかモノクロかなど)、納期などを具体的に記載して依頼しましょう。
業者とのコミュニケーションとトラブル回避
印刷をスムーズに進めるためには、業者との密なコミュニケーションが不可欠です。
- 見積もり依頼時: 依頼内容を明確に伝えることが、正確な見積もりと後のトラブル防止につながります。先述の「何を、どれくらい、いつまでに」に加え、デザインデータの状態(誰が作ったか、PDFかIllustratorかなど)も伝えると、業者側も適切なアドバイスがしやすくなります。
- 入稿時: 業者の指定する入稿方法(ウェブサイトからのアップロード、メール、記録メディア送付など)に従い、データのファイル名も指示があればそれに従いましょう。入稿前に、先述のデータチェックポイントを再度確認するか、デザイナーに最終確認を依頼すると安心です。
- 校正: 印刷会社は、入稿されたデータを印刷機にかける前に、問題がないかを確認する「校正」のプロセスを設けている場合があります(特に初めての取引や複雑な印刷の場合)。多くはPDFデータでの確認ですが、本機校正といって実際に試し刷りをして確認する場合もあります。この校正は、データ通りに印刷できるか、文字化けなどがないかを確認する最終チェックです。誤字脱字やレイアウトの最終確認は、デザインの段階で済ませておくのが理想ですが、ここでも念のために全体を確認しましょう。校正のOKを出すと印刷に進んでしまうため、慎重に行う必要があります。
予算内で品質を確保するための工夫
NPOの活動において、予算は常に考慮すべき重要な要素です。印刷コストを抑えつつ、必要な品質を確保するためには、いくつかの工夫があります。
- 仕様の検討: 用紙の種類(厚み、質感)、色数(フルカラーはモノクロより高価)、印刷方式(オフセット印刷かオンデマンド印刷か - 部数によって適性が異なります)、納期(短納期は通常割増料金)などを見直すことでコストを調整できます。
- 複数の業者を比較検討: 同じ仕様でも、業者によって価格は異なります。複数の業者から見積もりを取り、比較検討することが重要です。価格だけでなく、サポート体制や過去の実績も判断材料にしましょう。
- データ作成の工夫: データが完璧に仕上がっているほど、印刷会社での修正作業費がかかりません。データ作成時に注意を払うか、デザイナーに依頼する際に「印刷入稿まで対応」といった形で依頼することも有効です。
- 共同購入や連携: 複数のNPOや団体が集まってまとめて印刷を発注することで、スケールメリットによる割引を受けられる可能性がないか、模索してみるのも良いかもしれません。
まとめ
印刷物の入稿と業者選定は、デザインを実際の活動に活かすための最終ステップであり、適切に進めることで、高品質な広報物を効果的に配布できます。特にデザイン知識のないNPO広報担当者の方にとっては、専門用語や慣れないプロセスに難しさを感じるかもしれませんが、基本的なチェックポイントを押さえ、業者としっかりとコミュニケーションを取ることで、スムーズに進めることが可能です。
この記事でご紹介したポイントが、皆さんの印刷物作成の一助となり、団体のメッセージをより多くの人に届け、社会的な目的を達成するためのデザイン活用に繋がることを願っています。デザインデータという資産を、印刷という工程を経て、価値ある広報物へと育てていきましょう。