デザイナーと二人三脚で成果を出す。NPO広報担当者のためのデザインプロジェクト進行ガイド
デザインプロジェクトを外部のデザイナーと進める際、「うまくコミュニケーションが取れるだろうか」「プロジェクトは計画通りに進むだろうか」といった不安を感じるNPO広報担当者の方もいらっしゃるかもしれません。デザインに関する専門知識がない場合、どのようにプロジェクトに関われば良いのか、どこまで踏み込んで話して良いのか、迷うこともあるかと思います。
しかし、デザインプロジェクトは単に「発注して納品を受ける」という一方的な関係ではなく、NPOとデザイナーが「二人三脚」で進める共同作業です。NPO側が主体的にプロジェクトに関わり、デザイナーと円滑に連携することで、より質の高い成果物を得られるだけでなく、プロジェクト全体をスムーズに進めることができます。
この記事では、デザイン知識のないNPO広報担当者の方に向けて、デザイナーとのデザインプロジェクトを成功に導くための実践的な進行管理とコミュニケーションのポイントを解説します。
デザインプロジェクトにおけるNPO側の重要な役割
デザインプロジェクトを始めるにあたり、NPO側の役割は非常に重要です。単に要望を伝えるだけでなく、プロジェクトの進行役としてデザイナーと積極的にコミュニケーションを取り、適切な意思決定を行う必要があります。
具体的には、以下の点がNPO側の主要な役割となります。
- プロジェクトの目的・目標の明確化と共有: なぜそのデザインが必要なのか、デザインによって何を達成したいのかを明確にし、デザイナーと共有します。
- 情報の提供: プロジェクトを進める上で必要な情報(組織の紹介、ターゲット層の情報、既存の広報物、使用したい写真やロゴデータなど)を正確かつタイムリーに提供します。
- 意思決定: デザイン案の確認や、プロジェクトの方向性に関する重要な決定を行います。
- フィードバック: 提示されたデザイン案に対して、建設的かつ具体的なフィードバックを伝えます。
- スケジュールの管理: プロジェクト全体の進行状況を把握し、必要に応じてデザイナーと連携して調整を行います。
- 組織内の調整: 組織内の関係者との情報共有、合意形成、確認体制の確立を行います。
これらの役割を果たすことで、デザイナーはNPOの意向をより深く理解し、目的に沿ったデザインを提案できるようになります。
デザイナーとの最初の打ち合わせを最大限に活用する
デザイナーとの最初の打ち合わせは、プロジェクトの成功を左右する重要な機会です。依頼の際に作成したブリーフの内容を再確認し、より深く掘り下げる場として活用しましょう。
- ブリーフの補足と質疑応答: 事前に提出したブリーフについて、改めてデザイナーに口頭で説明し、補足情報を提供します。デザイナーからの質問には丁寧に答え、不明な点があればその場で確認します。
- 目的・ターゲットの再確認: デザイン制作の根幹となる目的とターゲット層について、デザイナーと共に深く掘り下げて話し合います。どのような人に、何を伝えたいのか、どのような行動を促したいのかを具体的に共有します。
- デザインの方向性の言語化: 抽象的なイメージだけでなく、「親しみやすい」「信頼感がある」「活動的」といった形容詞を使ったり、参考となるデザイン事例(他のNPOや企業の広報物、ウェブサイトなど)を見せたりしながら、希望するデザインのトーンやスタイルを具体的に伝えます。
- プロジェクトの進め方とルールの確認: 今後のコミュニケーション手段(メール、オンライン会議ツールなど)、頻度、レビューやフィードバックのプロセス、デザイン案の提示回数、修正対応の範囲、おおよそのスケジュール、費用支払い条件などを具体的に確認します。これにより、後々の認識のずれやトラブルを防ぐことができます。
- 分からないことは必ず質問する: デザインに関する専門用語や、デザイナーが提案する内容で分からないことがあれば、遠慮なく質問しましょう。非デザイナーであることを伝え、「こういう理解で合っていますか?」と確認することも有効です。
プロジェクト進行中の円滑なコミュニケーション術
プロジェクトがスタートしてからも、デザイナーとの継続的で円滑なコミュニケーションが不可欠です。
- 報連相(報告・連絡・相談)を密に: 進捗状況、組織内の検討状況、提供できる情報の準備状況などを適宜デザイナーに報告・連絡します。懸念事項や、当初の計画から変更が生じる可能性がある場合は、早めに相談しましょう。
- フィードバックは具体的に、根拠を示して: 提示されたデザイン案へのフィードバックは、「なんとなく違う」ではなく、「この写真よりも、活動している様子の写真の方がターゲット層に共感されやすいと思う」「この部分の文字が小さく、高齢者には読みづらい可能性がある」「私たちの団体の理念『共生』を表すには、もう少し柔らかい色合いが良いのではないか」など、具体的かつ理由や目的に紐づけて伝えましょう。
- デザイナーの意図を理解しようとする: デザイナーは専門家として、提示されたデザインの意図や根拠を持っています。「なぜこの色なのですか?」「なぜこのレイアウトなのですか?」と質問し、その意図を理解しようと努めることで、単なる好き嫌いではない、建設的な議論が可能になります。
- 組織内の確認・決定プロセスを明確に伝える: 組織内部でのデザイン案の回覧や検討、承認プロセスに時間がかかる場合は、その旨を事前に伝えておきます。これにより、デザイナーはスケジュールを考慮しやすくなります。確認や決定に遅れが生じる場合は、速やかに連絡を入れることが重要です。
想定外の事態への落ち着いた対応
デザインプロジェクトでは、予期せぬ遅延や仕様変更などが発生する可能性もゼロではありません。こうした状況に直面した場合も、落ち着いて対処することが大切です。
- 状況把握と情報共有: 何が原因で、どのような影響が出ているのか、正確な情報をデザイナーと共有します。NPO側で確認や準備が遅れている場合は、その状況を正直に伝えます。
- 解決策の検討: 問題解決に向けて、デザイナーと協力して現実的な代替案や解決策を話し合います。一方的に要望を押し付けるのではなく、デザイナーの専門知識や経験からアドバイスを求めましょう。
- 組織内での迅速な対応: 仕様変更や追加費用が発生する場合など、組織内の関係者との協議や承認が必要な場合は、迅速に進めます。決定事項は速やかにデザイナーに伝えます。
- 文書化: 口頭でのやり取りだけでなく、重要な決定や変更点については、メールやプロジェクト管理ツールなどで記録を残しておくことをお勧めします。
プロジェクト完了時の確認と次のステップ
デザイン成果物の納品時には、最終的な確認と今後の活用に向けた準備を行います。
- 納品物の最終確認: 依頼した仕様通りの成果物であるか、誤字脱字はないか、データの形式は適切かなどを丁寧に確認します。
- デザインデータの管理と活用: 納品されたデザインデータ(印刷用データ、Web用画像データなど)の形式、今後の利用範囲、編集可能性について確認します。可能であれば、ロゴや基本的なデザイン要素を汎用性の高いデータ形式でも受け取り、今後の広報活動に活かせるように整理しておきましょう。
- 権利関係の確認: 著作権や使用権がどうなっているのかを改めて確認します。特に、デザイナーが制作したデザイン要素(イラストや写真など)の二次利用や改変の可否について、明確にしておくと安心です。
- プロジェクトの振り返り: プロジェクト全体を振り返り、良かった点や改善点があれば、デザイナーと共有することで、将来的な再依頼や他のプロジェクトに活かすことができます。
まとめ
デザインプロジェクトを成功させる鍵は、NPO広報担当者とデザイナーの間の信頼関係と、密なコミュニケーションです。デザイン知識がないことは決して障壁にはなりません。プロジェクトの目的を明確に伝え、デザイナーの専門性を尊重しつつ、主体的にプロジェクトに関わる姿勢が重要です。
デザインは、NPOの活動を効果的に伝え、社会に共感を広げ、より多くの人々を巻き込むための強力なツールとなり得ます。デザイナーと二人三脚でプロジェクトを進める経験は、必ずNPOの広報活動を次のレベルへと引き上げるでしょう。この記事が、皆さんのデザインプロジェクトをスムーズに進めるための一助となれば幸いです。