社会とデザインの実践論

NPO広報担当者のための、メッセージがより伝わる「色とフォント」の基礎知識と実践

Tags: NPO, 広報デザイン, 色とフォント, デザイン基礎, デザイン実践

デザイン知識がないと感じているNPO広報担当者の方にとって、広報物やウェブサイトのデザインは大きな課題かもしれません。何から手をつけて良いか分からない、デザイナーにどう伝えれば良いか分からない、といった声も耳にします。

しかし、デザインを構成する要素の中で、特に重要で、少しの知識があるだけでも、ぐっと伝わり方が変わる二つの要素があります。それが「色」と「フォント」です。

これらの要素は、単なる装飾ではなく、メッセージのトーンを定め、団体の個性を表現し、情報の読みやすさに直結する、非常にパワフルなツールです。この記事では、NPO広報担当者の方々が、ご自身の活動をより効果的に伝えるために知っておきたい、色とフォントの基礎知識と、すぐに実践できる選び方・使い方について解説します。

なぜ色とフォントが重要なのか

私たちが何かを目にする時、まず視覚的な情報から印象を受け取ります。その印象を形成する上で、色は感情に訴えかけ、フォントは言葉の持つニュアンスや情報の性質を示唆します。

例えば、温かみのあるオレンジ色は親しみやすさを、落ち着いた青色は信頼感を与えます。また、太く力強いゴシック体は見出しとして注意を引きやすく、読みやすい明朝体は長い本文に適しています。

このように、色とフォントは、情報の内容そのものだけでなく、「どのように受け取ってほしいか」というメッセージのトーンや、団体の「らしさ」を伝える上で極めて重要な役割を果たします。適切に選ばれた色とフォントは、読み手の理解を助け、共感を呼び、行動へと繋がる可能性を高めるのです。

伝わる「色」の選び方と使い方

色は、私たちの心理や感情に直接的に働きかける力を持っています。NPOの活動やメッセージに合った色を選ぶことは、伝えたい想いをより深く届けることにつながります。

色の基本的な役割と選び方

色は主に、注意を引く、感情を喚起する、情報を分類する、といった役割を担います。 NPOの広報活動においては、伝えたいメッセージや団体の理念に合った色を選ぶことが重要です。

例えば、自然保護団体であれば緑や青といった自然を連想させる色が適しているかもしれません。子ども支援団体であれば、明るく希望を感じさせる黄色やオレンジなどが考えられます。活動内容やターゲット層を考慮し、与えたい印象に繋がる色を選びましょう。

配色の基本と考え方

デザインにおいては、複数の色を組み合わせて使用することが一般的です。色の組み合わせには基本的な考え方があります。

色の組み合わせ方には様々な理論がありますが、まずはメインカラーを中心に、サブカラーとアクセントカラーをそれぞれ1〜2色選ぶことから始めると良いでしょう。色の数を絞ることで、まとまりのある洗練された印象になります。

具体的な配色のアイデアとしては、メインカラーと「類似色」(色相環で隣り合う色)や「補色」(色相環で反対側の色)を組み合わせる方法があります。類似色は調和の取れた落ち着いた印象に、補色は互いを引き立て合うことで強い対比と活気をもたらします。ただし、補色同士を多用するとけばけばしくなることもあるため、アクセントカラーとして少量使うのが効果的です。

実践的なヒント:配色ツールを活用する

デザイン知識がなくても、配色に役立つ無料ツールがオンライン上に多数存在します。例えば、Adobe ColorやCoolorsといったツールは、選択した色に基づき、相性の良い色の組み合わせを提案してくれます。これらのツールを参考にしながら、ご自身の団体のイメージに合う配色を探してみるのも良い方法です。

伝わる「フォント」の選び方と使い方

フォント(書体)は、文字の見た目によって情報そのものだけでなく、その情報の持つ雰囲気や重要度を伝えます。適切なフォントを選ぶことで、メッセージの可読性を高め、伝えたいニュアンスを正確に表現できます。

フォントの種類と特徴

フォントには様々な種類がありますが、大きく分けて以下の2種類を知っておくと便利です。

この他にも、手書き風のフォントやデザイン性の高い装飾的なフォントなどがありますが、これらは多用すると読みにくくなる場合があるため、使う場面を慎重に選ぶ必要があります。

団体の活動に合ったフォントの選び方

フォントを選ぶ際も、団体の伝えたい印象やターゲット層を考慮します。真面目さや信頼感を重視するなら明朝体やそれに近いサンセリフ体、親しみやすさや活気を伝えたいなら丸ゴシック体やカジュアルなゴシック体などが考えられます。

また、印刷物かウェブサイトかによっても適したフォントは変わることがあります。一般的に、印刷物では明朝体も本文に良く使われますが、ウェブサイトでは画面上での可読性からゴシック体が本文に使われることが多い傾向があります。

フォントの組み合わせの基本

デザインに深みを出すためには、複数のフォントを組み合わせて使うのが効果的です。よく使われるのは、見出しにゴシック体、本文に明朝体、といった組み合わせです。異なる種類のフォントを組み合わせることで、情報の階層(見出し、本文、注釈など)を分かりやすく示すことができます。

組み合わせるフォントの数は、色と同様に2〜3種類程度に絞るのがおすすめです。多すぎると、デザインに統一感がなくなり、ごちゃごちゃした印象になってしまいます。同じ種類のフォントでも、太さ(ウェイト)や斜体(イタリック)などのスタイルを使い分けるだけでも、デザインに変化をつけることができます。

実践的なヒント:フリーフォントとライセンス

インターネット上には、無料で利用できる高品質なフォント(Google Fonts、日本語フリーフォントサイトなど)が多数公開されています。これらのフォントを活用することで、デザインの選択肢が広がります。ただし、フリーフォントを利用する際は、必ず利用規約(商用利用が可能か、改変が可能かなど)を確認するようにしてください。

色とフォントを組み合わせて「らしさ」を表現する

色とフォントは、単独で優れていても、組み合わせることでより強力な力を発揮します。団体の持つイメージや伝えたいメッセージに沿った色とフォントの組み合わせを見つけ、広報物全体で一貫して使用することが、「らしさ」を確立し、信頼感を醸成する上で非常に重要です。

可能であれば、団体の「簡易デザインガイドライン」を作成することをお勧めします。これは、使用するメインカラー、サブカラー、アクセントカラーとそのカラーコード(#FFFFFFのようなウェブ用の色の値)、使用するフォントの種類と基本的なサイズ目安(見出しはこのフォントで何pt/px、本文はこのフォントで何pt/pxなど)を簡単なドキュメントにまとめたものです。これにより、複数の担当者が広報物を作成しても、デザインに統一感を保つことができます。

デザイナーにデザインを依頼する際も、もし具体的なイメージがあれば、希望する色(例:「信頼感のある青系統」「温かみのある色合い」など)やフォント(例:「かっちりした印象のフォント」「親しみやすい丸みのあるフォント」など)について伝えてみてください。専門用語を知らなくても、具体的な印象や手本となるデザインを示すことで、デザイナーとのコミュニケーションがスムーズに進み、よりイメージに近い成果物を得やすくなります。

まとめ

色とフォントは、デザインの根幹をなす要素です。これらの基礎知識を知り、意識して選ぶことで、NPOの活動やメッセージはより多くの人に、より正確に伝わるようになります。

デザインの専門家でなくとも、色の持つ心理効果を理解したり、フォントの種類によって印象が変わることを知っているだけで、日々の広報活動におけるデザインへの向き合い方が変わるはずです。すべてを完璧に行う必要はありません。まずは、これから作成する広報物の「色」と「フォント」に少しだけ意識を向けてみることから始めてみてください。その小さな一歩が、あなたの団体のメッセージを、より多くの人々の心に届ける力となるはずです。