NPO広報担当者のための、デザイン依頼前に「構成案」を作る実践ガイド
デザインの専門知識がないNPO広報担当者にとって、デザイナーへの依頼は時に難しく感じられるかもしれません。頭の中でぼんやりとしたイメージはあるものの、それを具体的にデザイナーへ伝える方法が分からない、あるいは出来上がったデザインが意図したものと違う、といった経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このような「伝わらない」「違うものができた」というミスコミュニケーションを減らし、よりスムーズかつ効果的にデザインプロジェクトを進めるための一つの実践的な方法が、「構成案」を作成することです。この記事では、NPO広報担当者がデザイン依頼前に構成案を作る重要性とその具体的なステップについて解説します。
なぜデザイン依頼前に「構成案」が必要なのか
構成案とは、デザインの具体的な見た目(色やフォント、イラストなど)を決める前の段階で、伝えたい情報の内容、優先順位、配置などを整理し、視覚的に示すためのものです。これは、非デザイナーである広報担当者でも作成できます。構成案を作成することには、主に以下のようなメリットがあります。
- 意図の明確化と共有: 自身の中で伝えたいことや情報の構成が整理され、曖昧さがなくなります。これにより、デザイナーにも迷いなく意図を伝えられます。
- コミュニケーションロスの削減: 言葉だけでは伝わりにくい情報の構造や重要度を、視覚的に示すことで、デザイナーとの間に共通認識が生まれやすくなります。
- 手戻りの軽減: デザイン制作の初期段階で構成の方向性が定まるため、後工程での大幅な修正や手戻りを減らすことにつながり、結果的に時間やコストの節約になります。
- デザイン品質の向上: デザイナーは、広報担当者の意図や情報の構造を正確に理解した上でデザインに集中できるため、より効果的で目的に合致したアウトプットを生み出しやすくなります。
- プロジェクト進行の円滑化: 構成案を共有の基盤とすることで、その後の確認やフィードバックもスムーズに進められます。
デザインは単なる装飾ではなく、情報を効果的に伝え、受け手の行動や理解を促すためのツールです。そのツールの設計図となる構成案を、広報担当者が主体的に作成することで、デザインの目的達成に大きく貢献できます。
構成案を作成する具体的なステップ
構成案作りは、特別なデザインツールや技術は必要ありません。紙とペン、あるいは使い慣れたドキュメント作成ツール(Word、PowerPoint、Googleドキュメント/スライドなど)や簡単な描画ツール(Google Drawings、Canvaの作図機能など)で十分です。重要なのは、情報の整理と考え方です。
ステップ1: 目的とターゲットを再確認する
まず、今回のデザインで何を達成したいのか(例: 寄付を募りたい、イベント参加者を増やしたい、活動への理解を深めたい)、そして誰に伝えたいのか(例: 潜在的な寄付者、特定の地域の住民、メディア関係者)を改めて明確にします。この「誰に」「何を」「どうなってほしいか」という目的意識は、すべての情報整理と構成の基準となります。
ステップ2: 伝える情報を洗い出し、優先順位をつける
目的とターゲットに基づき、デザインに掲載すべき情報を全てリストアップします。団体の基本情報、活動内容、メッセージ、写真、連絡先、イベント情報、申し込み方法など、考えられる要素を全て書き出してみましょう。
次に、それらの情報に優先順位をつけます。最も伝えたいメインメッセージは何か? ターゲットが最初に見るべき情報は何か? 必ず目に入ってほしい情報は?といった視点で、情報の重要度を整理します。例えば、イベント告知であれば「イベント名」「日時」「場所」「参加費」「申し込み方法」は必須で、特に「イベント名」「日時」は目立つべき情報でしょう。
ステップ3: 情報の「流れ」を考える
リストアップし、優先順位をつけた情報が、受け手にどのように伝わってほしいか、情報の「流れ」を考えます。人は通常、視線を特定のパターンで動かします。印刷物なら左上から右下へ、ウェブページなら上から下へといった基本的な流れを意識しつつ、「まずこれを見て、次にこれを知り、最終的にこの行動につながる」といったシナリオを描いてみましょう。
例えば、寄付を募るチラシであれば、「問題提起や共感を呼ぶメッセージ → 団体の活動内容 → 寄付の必要性 → 寄付の方法 → 団体の信頼性を示す情報(実績やメッセージ)→ 問い合わせ先」といった流れが考えられます。
ステップ4: ラフスケッチやブロック図で配置を検討する
紙やドキュメント上で、ステップ3で考えた情報の流れや優先順位に基づき、各要素(見出し、本文、写真、ボタン、図など)をどこに配置するかをざっくりと図示します。これが構成案の核となる部分です。
- 手書きの場合: 紙に四角や丸を書いて、それぞれが何を示すか(「見出し」「写真A」「本文」「問い合わせ先」など)を書き込みます。大きさの比率や配置のバランスも意識し、鉛筆やペンで自由に描いてみましょう。
- デジタルツールの場合: WordやPowerPointの図形描画機能、またはGoogle Drawingsなどの簡単なツールを使って、テキストボックスや四角形を配置していきます。これらの図形が、情報ブロックや画像スペースを示します。詳細なデザインは不要です。あくまで情報の配置とスペース配分を示すことが目的です。
この段階で、具体的なテキストの長さ(大体で良いので「タイトル」「短い説明文」「詳しい活動説明(100字程度)」など)や、必要な写真・イラストのイメージ(「活動風景写真」「人物写真」「イラスト」「地図」など)も書き添えておくと、デザイナーへの伝達がよりスムーズになります。
ステップ5: デザイナーへ伝えるための情報をまとめる
作成した構成案とともに、デザインの背景にある目的、ターゲットの詳細、伝えたいメッセージ、そして構成案に盛り込んだ各要素に関する具体的な情報(テキスト原稿、使用したい写真データやイラストの指示、団体のロゴデータ、使用してほしい色やフォントの指定があればそれも)を一つにまとめます。構成案の各ブロックに対して、「この部分のテキストはこれです」「ここに使う写真はこのイメージです(または『〇〇な様子の写真が欲しい』と指示)」「この行動を促したいのでボタンを目立たせてください」といった具体的な指示を添えることが重要です。
これらの情報をまとめたものが、「デザインブリーフ」と呼ばれるものになります。構成案は、このブリーフの中でも特にデザインの構造や要素配置に関する重要なパートを担います。
構成案活用のポイント
構成案は、一度作ったら終わりではありません。完成した構成案を内部で共有し、意図が伝わるか、情報に抜け漏れはないかなどを確認すると良いでしょう。また、デザイナーとの打ち合わせの際に構成案を提示し、一緒に確認しながら認識のずれがないかを擦り合わせることで、より効果的な協働が可能になります。
もし、構成案の段階でデザイナーから「こう配置した方がターゲットに響くかもしれません」「この情報はもう少し目立たせた方が目的達成に繋がりそうです」といったフィードバックがあれば、それはデザインのプロとしての貴重な視点です。広報担当者の意図とデザイナーの専門知識を組み合わせることで、より質の高いデザインが生み出されます。
まとめ
NPO広報担当者にとって、デザイン依頼前に構成案を作成することは、デザインプロジェクトを成功に導くための非常に有効な実践手法です。これはデザインの知識がなくても取り組める、情報整理と思考のプロセスであり、デザイナーとのコミュニケーションを円滑にし、手戻りを減らし、最終的なデザインの質を高めることにつながります。
まずは、小さな広報物(例えばイベント告知のチラシやSNS投稿画像など)からでも構いません。目的とターゲットを明確にし、伝えたい情報を整理し、簡単なラフスケッチを描いてみることから始めてみてください。この一歩が、デザインを社会課題解決のための強力なツールとして、より効果的に活用していくための重要な実践となります。