NPO広報担当者のための、デザイナーとの協働が円滑になるデザイン用語・概念の基礎知識
はじめに
NPOの広報活動において、団体のメッセージを視覚的に効果的に伝えるために、デザイナーの力は非常に重要です。しかし、デザインの専門知識がないNPO広報担当者の皆様にとって、「デザイナーとのコミュニケーション」は時に難しく感じられるかもしれません。デザイナーから専門用語が出てきたり、自分の要望をうまく言葉にできなかったりといった経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
デザインにおける「言葉の壁」は、誤解を生み、プロジェクトの遅延や意図とは異なる仕上がりにつながる可能性があります。逆に、デザイナーが使う言葉や考え方の基本を少し理解するだけで、コミュニケーションは格段にスムーズになり、より建設的な協働が可能になります。
この記事では、NPO広報担当者の皆様がデザイナーと円滑に協働するために最低限知っておくと役立つデザインの基本的な用語や概念を、具体的な例を交えながら分かりやすく解説します。これらの知識を身につけることで、デザイナーとのやり取りがよりスムーズになり、皆様のNPO活動を魅力的に伝えるデザインが生まれる一助となれば幸いです。
なぜデザイン用語を知る必要があるのか
デザイナーは、色彩、形、配置、フォントなどを専門的に扱い、意図を持ってデザインを構成します。彼らが使用する言葉には、そうした専門的な知識や判断基準が込められています。これらの用語を知ることは、単に専門ぶることではなく、以下の点でコミュニケーションを円滑にするための「共通言語」を持つことにつながります。
- 意図や要望を正確に伝えられる: 「なんかおしゃれに」「もっとインパクト強く」といった曖昧な表現ではなく、「ターゲット層に合わせたトンマナで」「写真は解像度300dpiで用意します」のように具体的に伝えられるようになります。
- デザイナーからの説明を理解できる: デザイナーがデザインの意図や修正の理由を説明する際に、その背景にある考え方や技術的な制約を理解しやすくなります。
- 建設的なフィードバックができる: 漠然とした感想ではなく、「この部分のジャンプ率を少し抑えたい」「フォントの級数を調整したい」のように、具体的に改善点を伝えられるようになります。
- 信頼関係が構築できる: 専門用語を少しでも理解しようとする姿勢は、デザイナーとの間に信頼関係を築く一助となります。
最低限知っておきたいデザインの基本概念
まずは、個別の用語に入る前に、デザイン全体に関わる基本的な考え方や概念をいくつかご紹介します。これらは、デザインの依頼や検討をする上で非常に重要です。
1. トンマナ(トーン&マナー)
「トンマナ」とは、「トーン&マナー」の略称で、デザインや文章表現などにおける「全体の雰囲気やスタイル」を指します。例えば、ウェブサイト、チラシ、SNS投稿などで使用する色使い、フォント、言葉遣い、写真のテイストなどを一貫させることで、団体のイメージやメッセージに統一感を持たせ、読者に「らしさ」を伝えることができます。
- 実践へのヒント: デザイナーに依頼する際は、「私たちの団体のトンマナは『信頼感がありつつも温かい』イメージを目指したい」のように、具体的な言葉や参考になるデザイン(他団体のものなど)を示して伝えることが有効です。
2. ターゲットと目的
すべてのデザインには、明確な「ターゲット」(誰に伝えたいか)と「目的」(何を達成したいか)があります。ターゲットが学生なのか、高齢者なのか、支援者なのかによって、適切なデザインは大きく異なります。目的が「寄付を募る」「イベント参加者を増やす」「団体の認知度向上」なのかによっても、デザインの訴求方法は変わります。
- 実践へのヒント: デザインを依頼する際は、必ず「誰に」「何を伝えたいか」「その結果どうなってほしいか」を明確に伝えましょう。デザイナーは、これらの情報を元に最も効果的なデザインを提案します。
3. 情報設計
情報設計とは、伝えたい情報(テキスト、写真、図など)を整理し、ターゲットとなる読者が理解しやすく、目的を達成しやすいように配置・構成することです。デザインの見た目の美しさだけでなく、情報がスムーズに頭に入ってくるか、重要な情報が目立つかなどが情報設計の質に関わります。
- 実践へのヒント: デザインの依頼前に、伝えたい情報をリストアップし、その中で何が最も重要か、どのような順序で伝えたいかを整理しておくと、デザイナーとの共通認識を持ちやすくなります。ワイヤーフレーム(情報の配置案を簡単な図にしたもの)をデザイナーと共有するのも有効です。
ビジュアル要素に関する基本用語
次に、具体的なビジュアルに関わる用語をいくつか見ていきましょう。
1. 色に関する用語
- CMYK(シーエムワイケー)/ RGB(アールジービー):
- CMYKは、シアン(Cyan)、マゼンタ(Magenta)、イエロー(Yellow)、ブラック(Key Plate)の4色のインクを混ぜ合わせて色を表現する方法です。主に印刷物に使われます。
- RGBは、レッド(Red)、グリーン(Green)、ブルー(Blue)の光の三原色を混ぜ合わせて色を表現する方法です。主にウェブサイトやディスプレイ上で色を表現する際に使われます。
- 実践へのヒント: 同じ色でも、CMYKとRGBでは見え方が若干異なります。デザイナーにデータを受け取る際や、用途を伝える際に、印刷物用かウェブ用かを明確にしましょう。団体のロゴの色規定なども、CMYKとRGB両方で把握しておくと安心です。
2. 画像に関する用語
- 解像度(かいぞうど): 画像のきめ細かさを示す度合いです。1インチあたりに含まれる点の数(dpi: dots per inch)やピクセル数で示されます。解像度が低いと、拡大したときに画像が粗く見えます。印刷には一般的に300dpi以上の解像度が必要とされます。ウェブの場合は、印刷ほど高い解像度は必要ありませんが、画面サイズに対して小さすぎると不鮮明に見えます。
- 実践へのヒント: チラシやポスターなど印刷物に使う写真は、スマートフォンで撮影した写真では解像度が足りない場合があります。デザイナーに渡す前に、必要な解像度を確認しましょう。
- 画像形式:
- JPEG(ジェイペグ): 写真など色数の多い画像の保存に適しています。圧縮率が高くファイルサイズを小さくできますが、圧縮時に画質がわずかに劣化します。
- PNG(ピング): ロゴなど、背景を透過させたい画像や、図、イラストなどの保存に適しています。JPEGより圧縮率は低いですが、画質は劣化しません。
- GIF(ジフ): アイコンなど色数の少ない画像や、簡単なアニメーションに使われます。
- AI(エーアイ)/ EPS(イーピーエス)/ SVG(エスブイジー): これらは「ベクター画像」と呼ばれる形式で、点や線、面などの数値データで画像を表現します。拡大・縮小しても画像が劣化しないのが特徴です。ロゴやイラストによく使われます。デザイナーがAdobe Illustratorなどで作成したデータはこの形式であることが多いです。
- PSD(ピーエスディー): Adobe Photoshopで使われる画像形式です。レイヤー構造を保持できるため、後から編集しやすいという特徴があります。
- 実践へのヒント: 用途によって適切な画像形式を選びましょう。ウェブサイトにはJPEGやPNG、印刷物や汎用性の高いロゴデータなどはベクター形式(AIなど)での受け取りを依頼すると、後々の使い回しに便利です。
3. フォントに関する用語
- フォント(書体): 文字の形やデザインのことです。明朝体、ゴシック体、手書き風など様々な種類があります。フォントはデザイン全体の印象を大きく左右します。
- アウトライン化: 文字情報をそのままのフォントデータではなく、図形(パス)の情報に変換することです。印刷会社にデータを入稿する際などに必要になります。アウトライン化しないと、印刷会社が同じフォントを持っていない場合に文字化けする可能性があります。
- 実践へのヒント: デザイナーから印刷用のデータを受け取る際は、必ず「アウトライン化されているか」を確認しましょう。ウェブサイトや動画など、印刷以外の用途の場合はアウトライン化されていない方が後から文字修正がしやすい場合もあります。
- 級数(きゅうすう)/ ポイント(pt)/ ピクセル(px): 文字の大きさを表す単位です。印刷物では級数やポイント、ウェブではピクセルがよく使われます。
- ジャンプ率: 本文の文字サイズと見出しの文字サイズなど、異なるサイズの文字の大きさの比率のことです。ジャンプ率が大きいほど、見出しが強調され、情報にメリハリがつきます。
- 実践へのヒント: 見出しの文字サイズや本文の文字サイズについて具体的に要望を伝える際に、「〇〇ポイント程度で」「見出しは本文のジャンプ率を〇倍くらいに」のように伝えられると、より具体的な指示になります。
デザインプロセスに関する基本用語
デザイナーとのやり取りの中で出てくる可能性のある、デザインの制作過程に関する用語です。
- ブリーフ: デザイナーにデザインを依頼する際に、プロジェクトの概要、目的、ターゲット、要望、予算、スケジュールなどをまとめた書類や情報のことです。
- 実践へのヒント: 事前にしっかりとしたブリーフを用意することが、スムーズなデザイン制作の第一歩です。この記事の冒頭で述べた「ターゲットと目的」「トンマナ」「情報設計」などもブリーフに含めることで、デザイナーはより的確な提案ができます。
- ラフ: デザインの初期段階で、全体の構成や要素の配置を大まかに手書きなどで示したものです。詳細なデザインはまだ決まっていません。
- カンプ(Mockup / Composite): 完成イメージに近い形で作成されたデザイン案です。色、フォント、写真などが具体的に配置され、仕上がりの雰囲気を掴むことができます。
- 初稿(しょこう): デザイナーから最初に提出される正式なデザイン案のことです。
- 修正: 初稿や提出されたデザイン案に対する変更・調整の指示のことです。
- 入稿(にゅうこう): 完成した印刷用データを印刷会社に渡すことです。
- 実践へのヒント: ラフやカンプの段階でしっかりと意図を共有し、フィードバックを行うことが重要です。入稿データの形式やアウトライン化の要否などは、印刷会社やデザイナーに事前に確認しましょう。
これらの用語をどうコミュニケーションに活かすか
これらの用語を覚えることは、デザイナーとの会話のハードルを下げるだけでなく、より具体的な要望を伝えることにつながります。
例えば、チラシ制作を依頼する際に、
「この写真、なんか暗いから明るくしてほしいです。」 よりも 「この写真、少しアンダー(露出不足)なので、明るくトーン補正をお願いできますか。解像度は印刷に必要な300dpi以上はあります。」
と伝える方が、デザイナーは正確な意図を理解しやすくなります。
また、デザイン案を見てフィードバックする際に、
「ここ、なんか文字が読みづらいです。」 よりも 「この本文の級数(文字サイズ)が少し小さいようです。もう少し大きくできますか。」
と伝える方が、デザイナーは具体的な修正作業に取り掛かりやすくなります。
もちろん、すべてのデザイン用語を覚える必要はありません。まずは今回ご紹介したような基本的な概念やよく使われる用語から理解を深めていくことで十分です。
最後に:分からないことは遠慮なく質問しましょう
デザインの専門知識がないことは決して恥ずかしいことではありません。最も大切なのは、デザイナーとの間に誤解を残さないことです。もしデザイナーが使用した言葉や提案された内容で分からないことがあれば、遠慮なく質問しましょう。「〇〇というのはどういう意味ですか?」「なぜそのデザインにしたのですか?」と尋ねることで、理解が深まり、より良い協働につながります。
デザインは、NPOの活動内容や思いを社会に届け、共感を広げるための強力なツールです。デザイナーとの円滑なコミュニケーションは、そのツールの効果を最大限に引き出す鍵となります。この記事が、皆様のデザイナーとの協働をより豊かにするための一歩となることを願っています。