NPO広報担当者のための、失敗しないデザイナーとの初回打ち合わせガイド
デザインを活用して団体の活動を効果的に伝えたいと考えるNPO広報担当者の皆様にとって、デザイナーとの初回打ち合わせは重要なステップです。この最初の対面、あるいはオンラインでの対話が、その後のプロジェクトの成否を左右すると言っても過言ではありません。デザインの専門知識がないため、「何を話せば良いのか」「どんな準備が必要なのか」と不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、適切な準備と進め方を知っていれば、初回打ち合わせをスムーズに進め、デザイナーとの信頼関係を築き、プロジェクトを成功に導くための確かな一歩を踏み出すことができます。この記事では、NPO広報担当者がデザイナーとの初回打ち合わせに臨むにあたり、失敗を防ぎ、より良い成果に繋げるための具体的な準備と当日の進め方について解説します。
初回打ち合わせの重要性
デザイナーとの初回打ち合わせは、単に依頼内容を伝える場ではありません。これは、団体のビジョンやプロジェクトの目的をデザイナーと共有し、共に解決策を探る「協働の始まり」です。この場で、お互いの理解を深め、信頼関係を築くことができれば、その後のコミュニケーションが円滑になり、デザインの質も向上します。
この打ち合わせを通じて、デザイナーは団体の活動や課題、デザインを通じて達成したい目標を深く理解します。一方、広報担当者はデザイナーの考え方や得意なこと、プロジェクトの進め方を知ることができます。この相互理解が、デザインのミスマッチを防ぎ、期待以上の成果を生み出す土台となります。
打ち合わせ前に準備しておくべきこと
成功する初回打ち合わせのためには、事前の準備が非常に重要です。以下の点を整理しておきましょう。
1. プロジェクトの目的と目標の再確認
依頼したいデザインが、団体の活動や広報戦略の中でどのような役割を果たすのか、その目的を改めて明確にしましょう。例えば、イベント告知であれば「〇〇人の参加者を集める」、寄付募集であれば「△△円の寄付を募る」といった具体的な目標があると、デザイナーもデザインの方向性を定めやすくなります。「なぜデザインが必要か」を整理しておくことは、以前の記事でもお伝えしましたが、この打ち合わせの出発点となります。
2. ターゲットオーディエンスの明確化
デザインを通じて誰に何を伝えたいのかを具体的に説明できるように準備します。年齢層、性別、興味関心、普段の情報収集方法など、ターゲットとなる人々の特徴を詳しく伝えることで、デザイナーはその人々に響くデザインを提案しやすくなります。もし可能であれば、ターゲットを象徴するような人物像(ペルソナ)を設定しておくと、より具体的になります。
3. 提供できる情報・資料の整理
デザイナーがデザインを進める上で必要となる情報や資料を事前に整理しておきます。これには以下のようなものが含まれます。
- 団体の基本情報: 設立趣旨、沿革、活動内容、組織体制など。
- プロジェクト関連情報: 企画書、過去の関連イベント資料、活動報告書、関連ニュース記事など。
- 既存の広報物: ロゴデータ、使用中のチラシ、パンフレット、ウェブサイトのURL、SNSアカウントなど。これらは団体の既存のイメージやトンマナを伝えるのに役立ちます。
- 使用したい素材: テキスト原稿、写真データ、イラストデータなど。著作権や使用許諾についても確認しておきましょう。
- 参考資料: 「こんな雰囲気のデザインが良い」「こういう表現は避けたい」といった具体的なイメージを伝えるために、参考になるデザイン事例(ウェブサイト、チラシ、ポスターなど)をいくつか用意しておくと、言葉だけでは伝わりにくいニュアンスを共有しやすくなります。
4. 予算と納期の確認
プロジェクトにかけられる具体的な予算の上限と、成果物が必要な期日を明確に伝えます。予算が限られている場合でも、正直に伝えることで、デザイナーはその予算内で最大限の効果を出すための代替案や優先順位を提案してくれる可能性があります。納期についても、単なる希望ではなく、その期日である必要がある理由(例: イベント開催日、助成金申請締切など)を伝えると、重要度が伝わりやすくなります。
5. 質問事項のリストアップ
デザイナーに対して聞きたいこと、確認しておきたいことを事前にリストアップしておきましょう。例えば、以下のような点です。
- デザイナーのこれまでの経験や得意分野(NPOや社会課題に関するプロジェクト経験の有無など)
- 今回のプロジェクトをどのように進めるか(打ち合わせの頻度、デザイン提案の形式、修正のプロセスなど)
- デザイン費用の内訳と支払い条件
- 制作スケジュールと各段階での確認事項
- 完成したデザインデータの納品形式と今後の活用方法
- 契約に関する確認事項
これにより、打ち合わせ時間を有効活用でき、疑問点を漏れなく解消できます。
打ち合わせ当日の進め方
準備ができたら、いよいよ打ち合わせ本番です。以下の流れを参考に進めましょう。
1. 自己紹介とアイスブレイク
まずは、お互いの自己紹介から始めます。団体の紹介に加え、自身が広報担当としてどのような役割を担っているのかを伝えます。簡単な世間話などを交え、リラックスした雰囲気を作ることで、話しやすい関係性を築くことができます。デザイナーについても、経歴やデザインに対する考え方などを聞けると良いでしょう。
2. プロジェクト概要の説明
準備しておいたプロジェクトの目的、目標、ターゲットオーディエンス、背景などを具体的に説明します。なぜこのデザインが必要なのか、デザインによって何を達成したいのかを、デザイナーと共有する最も重要なパートです。団体の活動に対する熱意や、その課題をデザインでどう解決したいかといった想いを率直に伝えることで、デザイナーも共感し、プロジェクトへのモチベーションを高めることに繋がります。
3. 準備資料の共有と説明
事前に準備した資料(企画書、既存広報物、写真、テキスト、参考デザインなど)をデザイナーに見てもらいながら、それぞれについて説明を加えます。特に参考デザインについては、「この部分の色使いが良い」「この事例のようにシンプルな構成にしたい」など、具体的にどの点に魅力を感じたのかを伝えましょう。提供するテキストや写真がまだ不完全な場合でも、現状を正直に伝えることが大切です。
4. 質疑応答と意見交換
事前にリストアップした質問事項をデザイナーに問いかけます。デザイナーからも、プロジェクトについて確認したいことや、デザインを進める上での懸念点、提案などが提示されるかもしれません。分からない専門用語が出てきた場合は、遠慮なく質問して説明を求めましょう。この時間は、一方的に伝えるだけでなく、お互いの理解を深めるための双方向のコミュニケーションを心がけます。
5. 今後の流れと確認事項の共有
今回の打ち合わせで確認できたこと、次に誰が何をいつまでに行うのか、今後の連絡方法や打ち合わせの頻度などを明確にします。デザイン提案のスケジュールや、修正の依頼方法などもここで確認しておくと、その後のプロセスがスムーズになります。
6. 議事録の作成と共有
打ち合わせで話された内容、決定事項、ToDo(誰が何をいつまでに行うか)などを議事録として記録します。議事録は、認識のずれを防ぎ、プロジェクトの進捗管理に役立ちます。可能であれば、打ち合わせ後速やかに議事録を作成し、デザイナーと共有して内容に相違がないか確認を取りましょう。
デザイナーとの効果的なコミュニケーションのヒント
初回打ち合わせに限らず、デザイナーとの協働において大切なのは、率直で建設的なコミュニケーションです。
- 専門用語への理解: デザインに関する基本的な用語や概念について事前に少し学んでおくと、デザイナーとの会話がよりスムーズになります。以前の記事で紹介したデザイン用語集なども参考にしてみてください。
- 目的を伝える: デザインの見た目について「もっとこうしてほしい」と伝えることもありますが、その「なぜ」を伝えることが重要です。「ターゲット層に親しみやすさを感じてほしいから」「情報が多すぎて読みづらいと感じるから」など、デザインの変更によって達成したい目的や感じている課題を具体的に伝えましょう。
- 率直な意見交換: 提案されたデザインに対して、感じたことや懸念を率直に伝えます。ただし、「好き/嫌い」だけでなく、それが「目的達成にどのように影響すると考えるか」という視点で伝えることが、より具体的な改善に繋がります。
まとめ
デザイナーとの初回打ち合わせは、デザインプロジェクトを成功に導くための最初の、そして非常に重要なステップです。デザイン知識がないことへの不安は当然のことですが、この記事でご紹介したような事前の準備をしっかりと行い、当日はプロジェクトへの想いを率直に伝え、デザイナーと共に課題解決を目指す姿勢で臨むことが大切です。
初回打ち合わせは、デザイナーが単なる作業者ではなく、団体の目指す社会的な目標を共に実現するパートナーであるという認識を共有する場でもあります。丁寧な準備と、お互いを尊重するコミュニケーションを心がけることで、きっと良いスタートを切ることができるでしょう。この一歩が、団体の活動をより多くの人に届け、社会にポジティブな変化をもたらすデザインの実現に繋がることを願っています。