NPO広報担当者のための、デザイナーとの協働がうまくいく「良いデザインの見方」実践ガイド
はじめに
ウェブサイト「社会とデザインの実践論」をお読みいただき、ありがとうございます。本日は、NPO法人の広報担当者の皆様が、デザイナーとよりスムーズに、そしてより良い成果を目指して協働するための具体的な視点についてお話しします。
NPOの活動において、デザインは単に見た目を整えるだけのものではありません。伝えるべきメッセージを明確にし、共感を呼び、人々の行動を促すための強力なツールです。しかし、デザインの専門知識がない場合、「良いデザイン」がどのようなものか判断に迷うこともあるでしょう。デザイナーから提案されたデザインについて、どのようにフィードバックすれば良いか分からず困った経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、デザインそのものを作る技術ではなく、デザインの「見る目」を養うことに焦点を当てます。具体的にどのような点に注目すれば、そのデザインが活動の目的に合致しているか、伝えたい相手にしっかり届くかを判断できるのか、実践的なヒントをご紹介します。この「見る目」を養うことは、デザイナーとのコミュニケーションを円滑にし、より効果的な広報物を共に創り上げていく上で大変役立つはずです。
「良いデザイン」とは何か
広報担当者の皆様にとっての「良いデザイン」とは、単に「おしゃれ」であることや「かっこいい」ことだけを指すのではありません。それは、設定した広報の目的を達成するために、ターゲットとなる人々に、伝えたいメッセージが正確かつ効果的に届くように設計されたものです。
例えば、寄付を募るチラシであれば、「読んだ人が団体の活動に共感し、寄付をしたいと思う」ことが目的となります。その目的達成に貢献できるデザインこそが、そのチラシにおける「良いデザイン」と言えるでしょう。支援者の募集ポスターであれば、「興味を持った人が詳細を知るための行動を起こす(例:ウェブサイトを見る、説明会に参加する)」ことを促すデザインが良いデザインです。
このように、「良いデザイン」を評価する最初の基準は、常に「そのデザインが、広報の目的にどれだけ貢献しているか」という点にあります。
良いデザインを見分けるための具体的な視点
それでは、デザインが広報の目的に貢献しているかどうかを判断するために、具体的にどのような点を見れば良いのでしょうか。ここでは、デザインの専門知識がなくても確認できる、いくつかの重要なチェックポイントをご紹介します。
1. 目的とターゲットに合致しているか
これが最も基本的な、そして最も重要な視点です。
- 目的の確認: そのデザイン(チラシ、ウェブサイト、SNS画像など)は何のために作られたものでしょうか? 寄付を募るためか、イベントの参加者を増やすためか、ボランティアを募集するためか。あるいは、単に団体の認知度を高めるためでしょうか。デザイナーに依頼する際に伝えた「目的」と、上がってきたデザインが連携しているかを確認します。目的に沿った情報の配置や強調がなされているかを見ましょう。
- ターゲットの確認: この情報を受け取ってほしいのは、どのような人々でしょうか? 年齢層、性別、関心、リテラシー、普段アクセスする情報源などを具体的に想定します。デザインのトーンや表現、使用されている写真やイラストが、想定するターゲット層に響くものになっているかを確認します。例えば、高齢者向けの情報を若い人向けのデザインで伝えても、なかなか届きません。
デザイナーは、依頼時のブリーフや打ち合わせで共有された目的とターゲットに基づいてデザインを考えます。デザインを見る際には、まずこの「誰に」「何を」「どうしてほしいのか」が、デザイン全体から感じ取れるかを確認してください。
2. メッセージが明確に伝わるか
デザインはメッセージを伝えるための器です。器がどんなに美しくても、中身(メッセージ)が伝わらなければ意味がありません。
- 一番伝えたいことは何か: その広報物で最も重要なメッセージは何でしょうか? それがデザイン上で最も目立つように配置されているか、読みやすい大きさや色で表現されているかを確認します。見出しやキャッチコピーがすぐに目に入るか、本文が抵抗なく読めるかなどです。
- 情報が整理されているか: 複数の情報を盛り込む場合、それぞれの情報が分かりやすく整理されているかを見ます。情報の優先順位が明確か、関連する情報がまとまっているか、不必要な情報が混ざっていないかなどを確認します。情報の整理は、デザインの分かりやすさに直結します。
視線の流れや情報の階層(何が一番重要で、次に重要で、詳細情報はどこにあるか)が、意図通りに設計されているかを感じ取ろうと意識することが大切です。
3. 視覚要素の基本に問題がないか
デザインの専門知識がない方でも、少し意識するだけでチェックできる視覚要素の基本ポイントがあります。
- 読みやすさ:
- 文字サイズとフォント: メッセージを読んでもらえなければ始まりません。文字が小さすぎないか、また使われているフォントが目的に合っているか(例えば、堅い情報にカジュアルすぎるフォントを使っていないかなど)を確認します。
- 文字と背景の色のコントラスト: 文字の色と背景の色の差が十分にあるかを確認します。特にウェブサイトなどでは、コントラストが低いと読みにくく、アクセシビリティの観点からも問題になります。
- 行間と文字間: 文字の詰まりすぎ、開きすぎは読みにくさにつながります。適度な行間・文字間になっているかを見ます。
- 視線の誘導: 人は通常、左上から右下へ、または目立つ部分から関心のある部分へと視線を動かします。デザインが、伝えたい順序で自然に視線を誘導する流れになっているかを感じ取ります。重要な情報が最初に目に入り、次に詳細情報へとスムーズに進めるような構成になっているかを確認します。
- 統一感: ポスター、チラシ、ウェブサイト、SNSなど、複数の媒体で発信する際に、デザインに統一感があるかを確認します。団体のロゴ、キーカラー、使用するフォント、写真やイラストのテイストなどが揃っていると、団体の信頼性が高まり、情報を受け取る側も「この情報はこの団体からのものだ」と認識しやすくなります。デザイナーに依頼する際は、過去の広報物やブランドイメージについても共有することが重要です。
- 余白: 情報が詰め込まれすぎず、適切な余白があるかを確認します。余白は情報を区切り、見やすくするだけでなく、デザイン全体の印象を洗練させ、信頼感を高める効果もあります。
これらのポイントは、専門的な用語を知らなくても、「なんか読みにくいな」「どこを見ればいいか分からないな」「ごちゃごちゃしているな」といった直感的な違和感として感じられることが多いです。その違和感の原因を探る際に、上記のチェックポイントを思い出してみてください。
デザイナーとの協働で「良いデザインの見方」を実践する
デザインの「見る目」を養うことは、デザイナーとの協働をより円滑にするための重要なステップです。提案されたデザインに対して、漠然と「好きではない」「イメージと違う」と伝えるのではなく、具体的な視点を持ってフィードバックすることで、デザイナーは意図を正確に理解し、より適切な修正を行うことができます。
具体的なフィードバックのヒント
デザインを見て感じたことを伝える際には、先ほどのチェックポイントを参考にしてみてください。
- 「この見出しは重要なので、もう少し大きく、あるいは目立つ色にできませんか? ターゲット層(例えば、高齢者)が最初に目にするようにしたいです。」(目的・ターゲット、メッセージの明確さ、読みやすさの観点からのフィードバック)
- 「この図と隣接する文章の関連性が分かりにくいです。もう少し近づけるか、線で囲むなどして、情報のまとまりを分かりやすくできますか?」(情報の整理、視線の誘導の観点からのフィードバック)
- 「背景の色と文字の色が近く、少し読みにくいように感じます。もう少しコントラストをつけていただけると助かります。」(読みやすさの観点からのフィードバック)
- 「この写真の雰囲気が、団体のこれまでの広報物のトーンと少し違うように感じます。もう少し〇〇なテイストの写真(例:活動風景がより伝わる、笑顔が多いなど)にすることは可能でしょうか?」(統一感の観点からのフィードバック)
このように、ただ問題点を指摘するだけでなく、「なぜそう思うのか(目的、ターゲット、読みやすさなど)」と「どうなれば良いか(具体的な改善提案)」をセットで伝えるように心がけると、デザイナーは修正の方向性を掴みやすくなります。もちろん、具体的な改善策が思いつかない場合は、「〜という理由で伝わりにくく感じます。何か良い方法はありますか?」と相談することも有効です。
デザイナーはデザインのプロフェッショナルですが、NPOの活動内容や内部事情、ターゲット層の細かなニュアンスについては、広報担当者である皆様の方が詳しい場合がほとんどです。お互いの専門性を尊重し、目的達成のために積極的に対話を重ねることが、良いデザインを生み出す鍵となります。
見る目をさらに養うために
日頃から様々なデザインに触れる機会を持つことも、「見る目」を養う上で有効です。他のNPOの広報物、企業の広告、街中のポスターなど、様々なデザインを見て、「これは分かりやすいな」「なぜこれが伝わりにくいんだろう?」といったことを意識的に考えてみてください。
特に、自分たちの活動ターゲットと似ている団体や企業の広報物を参考にすると、自団体のデザインを考える上でのヒントが得られることがあります。ただし、単に見た目を真似るのではなく、「なぜそのデザインがターゲットに響くのか」「どのような工夫がされているのか」といった理由を考えることが重要です。
また、デザイナーとの打ち合わせの際に、「なぜこのデザインになったのですか?」「この色やレイアウトにはどのような意図があるのですか?」と質問してみることも、デザインの意図や考え方を理解する上で大変学びになります。
まとめ
デザインの専門知識がない広報担当者でも、デザインの「見る目」を養うことで、広報活動の効果を大きく高めることが可能です。本記事でご紹介した「目的とターゲットへの合致」「メッセージの明確さ」「視覚要素の基本」といった視点を意識することで、提案されたデザインが活動の目標達成に貢献できるものか、ターゲットに適切に届くものかを判断できるようになります。
そして、この「見る目」は、デザイナーとの協働を円滑にするための強力なツールとなります。具体的な根拠を持ってフィードバックすることで、デザイナーはより的確な修正を行うことができ、結果として団体のメッセージがより多くの人々に、より力強く伝わるデザインが生まれるでしょう。
デザインは、NPOの社会的な目的を達成するためのパートナーです。ぜひ、デザインを「見る目」を磨き、デザイナーと共に、社会に響く広報活動を展開していってください。