伝わるデザインは準備が9割。NPO広報のためのターゲット理解とリサーチ実践ガイド
伝わるデザインは「誰に」を深く知ることから始まる
NPOの活動を社会に伝え、共感を広げ、支援を得るためには、デザインの力が非常に重要です。しかし、「デザインがどうも響かない」「思いが伝わらない」と感じることはないでしょうか。どんなに見た目が美しいデザインであっても、受け取る人に響かなければ、その効果は限定的になってしまいます。
デザインが本当に伝わるかどうかは、実はデザインそのものに入る前の「準備」の段階で、ほぼ決まると言っても過言ではありません。特に重要なのが、「誰に」伝えたいのか、そのターゲットを深く理解することです。本記事では、NPO広報担当者の皆様が、ターゲットを的確に捉え、効果的なデザインにつなげるためのリサーチと準備の方法について解説します。
なぜ、デザインの前にターゲット理解とリサーチが重要なのか
デザインは単なる装飾ではなく、コミュニケーションのツールです。そして、コミュニケーションは相手がいて初めて成り立ちます。誰に伝えたいのかが曖昧なままデザインを進めてしまうと、メッセージがぼやけたり、ターゲットの関心とズレてしまったりするリスクが高まります。
ターゲットを深く理解することは、以下の点で効果的なデザインを実現するために不可欠です。
- メッセージの明確化: ターゲットの課題や関心事が分かれば、最も響く言葉や表現を選べます。
- 共感の獲得: ターゲットの感情や価値観に寄り添ったデザインは、共感を生みやすくなります。
- 最適な媒体・手法の選択: ターゲットが普段どのような情報に触れているかを知ることで、チラシが良いのか、SNS投稿が良いのか、動画が良いのかなど、最も効果的な情報伝達手段を見極められます。
- リソースの効率化: 的外れなデザインに時間や予算を費やすことなく、限られたリソースを最大限に活かせます。
ターゲットを深く理解するためのステップ
ターゲットを「なんとなく〇〇な人たち」で終わらせず、具体的な人物像として捉えるための基本的なステップをご紹介します。
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ターゲットの明確化: まず、そのデザインで伝えたい情報が「誰に」向けられているのかを具体的に定義します。例えば、「寄付を検討している地域住民」「活動への参加を検討している大学生」「ボランティアに関心のある高齢者」などです。複数のターゲットがいる場合は、それぞれのターゲットに分けて考える必要があります。
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ターゲットに関する仮説を立てる: 定義したターゲットについて、現時点で分かっていることや推測できることをリストアップします。
- 年齢層、性別、居住地域
- 職業やライフスタイル
- どのようなことに興味があるか、関心は低いか
- どのような課題や悩みを抱えているか
- 私たちのNPOや活動について、どの程度知っているか
- 普段、どのような媒体(テレビ、新聞、SNS、チラシ、ウェブサイトなど)で情報を得ているか
- どのような言葉遣いやトーンに反応しやすいか
- NPO活動に対して、どのようなイメージや感情を抱いているか
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リサーチで仮説を検証し、深掘りする: 立てた仮説が正しいかを確認し、さらにターゲット理解を深めるために、以下の方法を試みてください。NPOの状況に合わせて、無理のない範囲で実施することが重要です。
- 既存データの活用: 過去のイベント参加者リスト、サポーター情報、ウェブサイトのアクセス解析データ、SNSのフォロワー属性などを確認します。
- 関係者へのヒアリング: 実際にターゲット層と関わりのあるスタッフやボランティア、あるいは既にサポーターや参加者となっている人たちに話を聞きます。「なぜ私たちの活動に関心を持ったのか」「どんな情報が役に立ったか」などを尋ねてみましょう。
- 簡単なアンケート調査: ウェブサイトやSNS、イベントなどで、ターゲット層に向けた簡単なアンケートを実施します。関心事や情報収集の方法について質問項目を設けてみてください。
- ソーシャルリスニング: SNS上で、ターゲット層がどのような話題について話しているか、どのような情報に反応しているかを観察します。
- ペルソナ設定: リサーチで得られた情報を基に、架空の代表的な人物像(ペルソナ)を作成します。名前、年齢、職業、趣味、家族構成といった基本情報に加え、その人の価値観、課題、目標、情報収集習慣などを具体的に記述することで、ターゲット像がより明確になります。
リサーチ結果をデザインに活かす方法
リサーチで得られたターゲットへの深い理解は、デザインの様々な側面に反映させることができます。
- メッセージとコピーライティング: ターゲットが共感しやすい言葉、理解しやすい専門用語のレベル、呼びかけのトーンなどを決定します。
- ビジュアルデザイン:
- 写真・イラスト: ターゲットが親しみを感じる、あるいは感情移入しやすい人物像やシーンを選びます。視覚的に訴えかける要素(色、雰囲気など)もターゲットの好みに合わせます。
- 配色: ターゲットの年代や文化、伝えたい感情に合った配色を選びます。
- フォント: ターゲットの読解力や慣れ親しんでいる媒体に合わせて、読みやすいフォントを選びます。
- レイアウト: ターゲットの情報接触方法(スマホで見る人が多いか、じっくり紙媒体を読むかなど)を考慮し、情報の優先順位付けや配置を検討します。
- 情報設計: ターゲットが最も知りたい情報を、最も分かりやすい構造で提示します。
- デザイン媒体の選択: ターゲットがよく利用するメディア(Facebook、Instagram、X、地域広報誌、イベント会場など)に合わせて、デザインを展開します。
デザイン依頼時にターゲット情報を伝える重要性
外部のデザイナーにデザインを依頼する場合、リサーチで得られたターゲットに関する情報は、デザイナーへのブリーフ(依頼の概要をまとめた文書)に必ず含めるべき最も重要な要素の一つです。「誰に伝えたいのか」「そのターゲットはどのような人たちなのか」「どんな課題やニーズを持っているのか」「なぜその人たちに伝えたいのか」といった背景情報を具体的に伝えることで、デザイナーはターゲットに響くデザインをより的確に提案できるようになります。
ターゲット情報が曖昧なまま依頼を進めると、デザイナーは一般的な、あるいは依頼者の主観に基づいたデザインを制作せざるを得なくなり、結果としてターゲットに伝わらないデザインになってしまうリスクがあります。
継続的なターゲット理解の取り組みを
ターゲットの状況や社会のトレンドは常に変化します。一度ターゲットを理解したとしても、その理解を定期的に見直し、アップデートしていくことが重要です。活動報告会での参加者の声、SNSへのコメント、サポーターからのフィードバックなどを日頃から注意深く観察し、ターゲットへの理解を深める努力を続けることで、より効果的な広報デザインを継続的に展開していくことができるでしょう。
デザインは、ターゲットへの深い共感と理解があってこそ、その力を最大限に発揮します。デザインの準備段階でしっかりとターゲットを見つめ直す時間を設けることが、NPOの活動を広く、深く伝えていくための確かな一歩となるはずです。