NPO広報担当者のための、日々の情報発信で差がつく「小さなデザイン」実践術
ソーシャルデザインプロジェクトに関わる多くのNPO広報担当者の皆様は、日々の活動を効果的に伝えたいと考えていらっしゃると思います。専門的なデザイン知識がない中で、限られたリソースを最大限に活かし、団体のメッセージをより多くの人に届けるためには、どのようなアプローチが可能でしょうか。
この記事では、デザイナーに依頼するほどではないけれど、日々の情報発信の質を高める上で重要な「小さなデザイン」に焦点を当て、非デザイナーの皆様が実践できる具体的な手法と、その活用がもたらす効果について解説します。
なぜ日々の「小さなデザイン」が重要なのか
NPOの活動は、単発の大きなイベントだけでなく、継続的な情報発信によって成り立っています。ブログ記事、SNS投稿、メールマガジン、簡易的なチラシや資料など、日々の様々な接点を通じて、団体のミッションや活動内容、想いを伝えています。
これらの日常的なコミュニケーションツールに、少しのデザイン的な配慮を加えることは、決して些細なことではありません。一つ一つの「小さなデザイン」の積み重ねは、読み手の印象を左右し、メッセージの伝わりやすさに大きな差を生み出します。
- 信頼性の向上: 整えられたビジュアルは、団体の活動に対する信頼感や真剣さを伝えます。
- 情報の整理と可視化: デザイン要素を用いることで、複雑な情報も直感的に理解しやすくなります。
- 注意の喚起: 視覚的な工夫は、多くの情報の中から自団体のメッセージに気づいてもらうきっかけを作ります。
- 団体の「らしさ」の醸成: 一貫性のあるデザイン要素を用いることで、団体のブランドイメージを育むことができます。
高額な予算をかけたり、高度な専門スキルを習得したりする必要はありません。日常業務の中で少し意識を変えるだけで取り組める「小さなデザイン」の工夫は、NPOの情報発信力を確実に高めます。
「小さなデザイン」の具体例と実践ステップ
では、「小さなデザイン」とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。そして、どのように実践すれば良いのでしょうか。
「小さなデザイン」とは、以下のような日々の広報物やコミュニケーションに加える、比較的手軽なデザイン的な工夫や配慮を指します。
- SNS投稿に使用する画像の作成・編集
- ブログ記事のアイキャッチ画像の選定・加工
- メールマガジン内のバナーや署名デザイン
- オンラインイベント告知ページの簡単なレイアウト調整
- 寄付募集ページのボタンやレイアウトの微調整
- 活動報告ブログなどで使用する簡単な図解やグラフの作成
- プレゼン資料のテンプレート活用や簡単なデザイン調整
- 配布資料の見出し、本文、図表のフォントや配置の整理
これらの「小さなデザイン」を効果的に行うための実践ステップをご紹介します。
ステップ1:目的とターゲットを明確にする
デザインに着手する前に、その情報発信の「目的」と「誰に伝えたいか」を明確にすることが最も重要です。
- この投稿/資料で何を達成したいか?(例:イベント参加者を増やす、寄付を募る、活動理解を深める)
- 主な読み手は誰か?(例:地域住民、ボランティア、潜在的な寄付者、メディア関係者)
- 読み手に最終的にどのような行動を取ってほしいか?
目的とターゲットが明確になることで、デザインの方向性やおさえるべきポイントが見えてきます。例えば、高齢の地域住民向けであれば文字サイズを大きく、親しみやすいイラストを用いる、といった配慮が必要になります。
また、団体のロゴやメインカラー、使用を推奨するフォントなど、最低限のビジュアルアイデンティティに関わる要素を整理しておくと、小さなデザインにも一貫性を持たせやすくなります。もし団体のロゴデータや簡単なブランドガイドラインがあれば、それを活用することから始めましょう。
ステップ2:非デザイナー向けツールとテンプレートを活用する
専門的なデザインツール(IllustratorやPhotoshopなど)は難しくても、非デザイナーでも直感的に使えるツールが数多く存在します。特に「Canva」のようなオンラインデザインツールは、豊富なテンプレートが用意されており、ドラッグ&ドロップで画像やテキストを配置できるため、NPO広報担当者の強い味方となります。
- テンプレートの選び方: 目的に合ったテンプレートを選びましょう。完全に一致するものがなくても、レイアウト構成が良いものや、使いたい要素(写真枠、テキストボックスなど)が含まれているものを選び、後でカスタマイズします。
- カスタマイズのコツ:
- テンプレートの色を団体のブランドカラーに変更する。
- テンプレートのフォントを団体の推奨フォント(またはそれに近い読みやすいフォント)に変更する。
- 写真やイラストは、団体の活動内容やターゲット層に合ったものに差し替える。(著作権に注意して利用可能な素材を探しましょう)
- テキストは簡潔に、重要な情報が目立つように配置する。見出しと本文でフォントサイズや太さを変えると、情報にメリハリがつきます。
テンプレートはあくまで出発点です。完全にそのまま使うのではなく、団体の「らしさ」を出すためのカスタマイズを心がけてください。
ステップ3:情報を整理し、視覚的に分かりやすくする
デザインの役割の一つは、情報を分かりやすく伝えることです。特に複雑なデータやプロセスを図解する際に、デザインの知識が役立ちます。
- 情報のグルーピング: 関連性の高い情報はまとめて配置します。見出し、本文、図表などで情報の階層を明確にしましょう。
- 図解やグラフの活用: 数字だけでは理解しにくいデータは、グラフや図で視覚化します。ツールによっては簡単なグラフ作成機能があります。複雑な内容は、シンプルな図形(四角、丸、矢印など)やアイコンを組み合わせて作成することも可能です。
- 箇条書きの活用: 長文になりがちな説明は、箇条書きにしてインデントや記号で区別すると、格段に読みやすくなります。
- 余白を意識する: 要素を詰め込みすぎず、適度な余白(ホワイトスペース)を設けることで、全体がすっきりし、情報が頭に入りやすくなります。
ステップ4:一貫性を保ち、デザイン資産を管理する
日々の「小さなデザイン」であっても、団体の発信する情報全体に一貫性を持たせることは重要です。使用する色、フォント、画像やイラストのトーンなどをある程度統一することで、受け手は「これは〇〇団体の情報だ」と認識しやすくなります。
簡単なルールブックとして、使用するロゴの種類、メインカラー、アクセントカラー、基本的なフォント、画像素材の探し方といった項目をまとめたものをチーム内で共有するだけでも効果的です。
また、作成したデザインデータ(Canvaのプロジェクトデータなど)は、後で再利用できるよう整理して保存しておきましょう。過去のイベント告知バナーを少し修正して次の告知に使う、活動報告資料の一部をSNS投稿用の画像に加工するなど、効率的な再利用が可能になります。これは「デザイン資産活用ガイド」で詳しく解説されているテーマですが、日々の小さなデザインにおいても意識することで大きな時短につながります。
ステップ5:効果を見て、改善につなげる
作成した「小さなデザイン」が、意図した効果を生んでいるかを確認することも大切です。
- SNS投稿のエンゲージメント率(いいね、コメント、シェアなど)は増えたか?
- ウェブサイトの特定のページへの誘導率は上がったか?
- メールマガジンの開封率やクリック率は変化したか?
明確なデータが取れない場合でも、周囲の反応や、実際にメッセージがどれだけ伝わったかを観察してみましょう。そして、効果があった点、改善が必要な点を見つけて、次のデザインに活かしていきます。この小さなPDCAサイクルを回すことが、デザインスキル向上にもつながります。
どこまで自分で?どこからデザイナーに依頼?
日々の「小さなデザイン」は自分たちで行いつつ、本格的な広報ツール(団体のパンフレット、主要ウェブサイト、年次報告書など)や、どうしてもプロの視点や技術が必要な場合は、デザイナーに依頼することを検討しましょう。
ご自身で「小さなデザイン」に取り組む過程で、「どのようなデザインが得意か」「どのようなデザイン要素が足りないか」が見えてくるはずです。それが、デザイナーへの依頼を検討する際の具体的な要望や、依頼範囲を定める上で役立ちます。
「予算がなくても始められるデザインプロジェクト企画・準備 実践ガイド」や「NPO広報担当者のための失敗しないデザイナー選びと効果的な依頼術」といった記事も参考に、計画的に進めていくことが重要です。
まとめ:日々の小さなデザインで、伝わる広報を
NPOの広報活動において、デザインは専門家だけのものではありません。日々の情報発信に少しのデザイン的な配慮を加える「小さなデザイン」は、特別な知識や予算がなくても実践でき、団体のメッセージをより分かりやすく、力強く伝えるための有効な手段です。
この記事でご紹介したステップを参考に、まずは身近な情報発信ツールからデザインの工夫を取り入れてみてください。目的を明確にし、非デザイナー向けツールやテンプレートを賢く活用し、情報を整理して分かりやすく伝え、そして一貫性を保つこと。これらの小さな努力が積み重なることで、必ずや団体の広報効果は高まっていくはずです。
デザインは、単なる装飾ではなく、社会的な目的を達成するための強力なツールです。日々の「小さなデザイン」を通じて、貴団体の活動がさらに多くの人々に届き、共感を呼ぶことを願っています。