NPO広報担当者のための、伝わるビジュアル素材(写真・イラスト)の探し方と使い方
はじめに:デザイン知識がなくてもビジュアル素材で広報力を高める
NPOの広報活動において、ウェブサイトやSNS、報告書、イベント告知物などで写真やイラストといったビジュアル素材は非常に重要な役割を果たします。これらの素材は、活動内容を直感的に伝え、共感を呼び、信頼性を高める力を持っています。しかし、「デザインの専門知識がない」「どこから画像を持ってきて良いか分からない」「著作権が心配」といった理由で、ビジュアル素材の活用にためらいを感じる広報担当者の方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、デザインの経験がないNPO広報担当者の方が、活動をより効果的に伝えるための写真やイラスト素材を、著作権に配慮しながら賢く探し、実践的に活用する方法を解説します。素材選びの基本から具体的な探し方、そしてデザインに活かすための簡単なポイントまでをご紹介します。
なぜビジュアル素材がNPO広報に不可欠なのか
文字情報だけでは伝えきれない活動の魅力や現場の雰囲気を、写真やイラストは瞬時に伝達できます。例えば、支援の現場の写真一枚は、活動報告書の何ページにもわたる文章よりも、見る人の心に強く訴えかけることがあります。
- 共感の醸成: 活動に参加する人々の笑顔や、支援対象の状況を写した写真は、見る人の感情に直接働きかけ、共感を呼び起こします。
- 信頼性の向上: 実際の活動風景や関係者の顔が見えるビジュアルは、団体の透明性や信頼性を高めます。
- 情報の分かりやすさ: 複雑なデータや仕組みも、インフォグラフィックスのようなイラストを用いることで、分かりやすく伝えることができます。
- 識別のしやすさ: 印象的なビジュアルは、数ある情報の中から団体の情報を探し出しやすくし、記憶に残りやすくします。
このように、ビジュアル素材はNPOのメッセージを効果的に届け、ステークホルダー(支援者、参加者、地域住民など)との関係性を深めるための強力なツールとなります。
押さえておきたい著作権の基本
ビジュアル素材を扱う上で最も重要なのが「著作権」です。インターネット上にある画像やイラストを無断で使用することは、著作権侵害にあたる可能性があります。著作権法は、著作物(写真、イラスト、文章など)を作成した人(著作者)の権利を保護するための法律です。
- 無断使用の禁止: 原則として、著作者に許可なく著作物を利用(複製、公衆送信など)することはできません。個人のブログやSNSに掲載されている写真も、基本的には著作権で保護されています。
- 著作者人格権: 著作者には、作品の公表を決定する権利、氏名を表示するかしないかを決定する権利、作品の内容を勝手に改変されない権利などがあります。これらの権利は譲渡できません。
- 著作権の例外: 教育や研究のための引用、私的使用のための複製など、一定の条件下では著作権者の許諾なしに著作物を利用できる場合がありますが、これらは限定的です。広報活動での利用は「私的使用」にはあたりません。
【実践ポイント】 安易にインターネット検索で見つけた画像をコピー&ペーストして使うことは絶対に避けてください。必ず、著作権者の許可を得るか、後述する適法な方法で入手した素材を使用する必要があります。
適法に高品質なビジュアル素材を探す方法
著作権をクリアしつつ、NPOの広報活動に使えるビジュアル素材を入手する方法はいくつかあります。予算や必要な素材の種類に応じて使い分けるのが賢明です。
1. 自身で撮影・作成する
最も確実な方法は、団体のスタッフや関係者が自ら写真撮影を行ったり、簡単なイラストを作成したりすることです。活動の現場や関係者の自然な表情を捉えた写真は、リアリティがあり、見る人に響きやすいという大きな利点があります。
- メリット: 著作権の問題がない、活動内容に完全に合致した素材が得られる、オリジナリティが出せる、費用がかからない(撮影機材は必要)。
- デメリット: 撮影・作成のスキルや時間が必要、必要な全てのシーンを撮影できるとは限らない。
【実践ポイント】 活動現場での写真撮影は、写っている方の肖像権にも配慮が必要です。事前に同意を得るか、顔が特定できないように配慮しましょう。スマートフォンでも高品質な写真は撮影できます。
2. フリー素材サイトを活用する
インターネット上には、クリエイティブ・コモンズ・ゼロ(CC0)のように、著作権を放棄しているか、非常に緩やかなライセンスで公開されている高品質な写真やイラストを提供するサイトが多数存在します。これらはクレジット表記なしで商業利用(NPOの広報活動も含む)が可能な場合が多いです。
- 代表的なフリー素材サイト例:
- 写真: Unsplash, Pexels, Pixabay
- イラスト: Illustrations.co, unDraw (特定のスタイル), いらすとや (日本人向けだが利用規約要確認)
- メリット: 費用がかからない、検索すれば多様な素材が見つかる、ダウンロードしてすぐに使える。
- デメリット: 他の団体も同じ素材を使っている可能性がある、活動内容に完全に合致する写真を見つけるのが難しい場合がある、サイトごとの利用規約を確認する必要がある。
【実践ポイント】 フリー素材サイトを利用する際は、必ずそのサイトの利用規約を確認してください。「商用利用可」「クレジット表記不要」となっていても、禁止事項(再配布、素材自体を商品とするなど)がある場合があります。人物が写っている写真では、被写体の肖像権について配慮されているか不明な場合もあるため注意が必要です。
3. 低価格のストックフォト・イラストサイトを利用する
より多様でオリジナリティのある素材が必要な場合は、有料のストックフォト・イラストサイトを利用するのも選択肢です。月額制や従量課金制など様々なプランがありますが、比較的安価に利用できるサービスもあります。
- メリット: 高品質でプロが撮影・作成した素材が豊富、他の団体と全く同じ素材を使うリスクを減らせる、特定のテーマに合致した素材が見つけやすい。
- デメリット: 費用がかかる、ライセンスの種類を理解する必要がある。
【実践ポイント】 団体の予算に合わせて、少量のクレジット購入から始められるサイトや、月額定額でダウンロードし放題のサイトなどを検討してください。写真だけでなく、イラストやアイコン素材なども豊富に揃っています。
4. デザイナーやイラストレーターに依頼する
団体の活動に特化した、完全にオリジナルのビジュアル素材が必要な場合は、プロのデザイナーやイラストレーターに依頼するのが最適です。
- メリット: 活動内容やメッセージに完全に合わせた素材が得られる、クオリティが高い、オリジナリティが高い。
- デメリット: 費用がかかる、依頼のスキルやコミュニケーションが必要。
【実践ポイント】 予算が限られている場合は、地域のデザイナーや、プロボノ(専門スキルを無償提供する活動)に協力してくれる人を探すことも可能です。依頼する際は、どのような写真・イラストが欲しいのか、具体的なイメージや使用目的を明確に伝えましょう。
伝わるビジュアル素材の選び方と簡単な使い方
素材を入手したら、次に考えたいのが「どのように選んで使うか」です。単に画像を貼るだけでなく、いくつかのポイントを押さえることで、より効果的にメッセージを伝えることができます。
1. 活動内容やメッセージとの一致
選ぶ写真やイラストは、伝えたい活動内容やメッセージと深く関連している必要があります。例えば、環境保護の活動を伝えるのに、全く関係のない都会の風景写真を使うのは適切ではありません。支援の現場の写真、活動に参加する人々の生き生きとした表情、団体の理念を象徴するイラストなど、伝えたいことに直結する素材を選びましょう。
2. ターゲット層への響きやすさ
誰に情報を届けたいのか(ターゲット層)を意識することも重要です。例えば、高齢者向けのプログラムを告知するなら、高齢者が安心して参加できそうな温かい雰囲気の写真を選ぶと良いでしょう。若年層向けなら、よりスタイリッシュで活動的な写真が響くかもしれません。ターゲット層が共感しやすい、親しみを感じやすい素材を選びましょう。
3. 写真・イラストの品質と雰囲気
ブレている写真、解像度が低すぎる写真、古すぎる雰囲気のイラストなどは、団体の信頼性を損なう可能性があります。できる限り高解像度でクリアな写真や、デザインのトレンドから大きく外れていないイラストを選びましょう。また、団体の雰囲気(真面目、楽しい、温かいなど)に合ったトーン&マナーの素材を選ぶと、広報物全体に統一感が生まれます。
4. デザインに活かす簡単なテクニック
デザインツール(Canvaなど、無料または安価で使えるツールも多数あります)を使えば、デザイン知識がなくても簡単な加工やレイアウトが可能です。
- トリミング: 写真の一番伝えたい部分だけを切り取ることで、メッセージを明確にできます。不要なものが写り込んでいる場合は思い切ってトリミングしましょう。
- 文字との組み合わせ: 写真やイラストの上に活動名やキャッチコピーを入れることで、視覚的に訴えかける広報物が作れます。文字が読みにくくならないよう、写真の上に半透明の色を重ねるなどの工夫も有効です。
- 統一感: 同じ広報物内、または団体の広報物全体で、写真のトーンやイラストのスタイルに統一感を持たせると、プロフェッショナルな印象を与えられます。特定のフィルターを使ったり、同じイラストレーターの素材を選んだりするのも良い方法です。
これらの簡単なテクニックだけでも、ビジュアル素材の見栄えは大きく向上し、メッセージの伝わり方が変わります。
まとめ:ビジュアル素材はNPO広報の強い味方
デザインの専門知識がなくても、写真やイラストといったビジュアル素材は、NPOの広報活動を格段に豊かにし、効果を高める強力なツールとなります。著作権の基本を理解し、自身での撮影、フリー素材サイト、ストックフォトサイト、あるいはプロへの依頼といった多様な入手方法から、団体の状況に合った最適な方法を選びましょう。
そして、入手した素材は単に使うだけでなく、活動内容やターゲット層、団体の雰囲気に合わせて慎重に選び、簡単なデザインテクニックも活用することで、さらにその効果を最大化できます。
この記事が、NPO広報担当者の皆様がビジュアル素材を味方につけ、団体の活動をより多くの人に届け、共感を広げる一助となれば幸いです。デザインは難しいものではなく、目的達成のための実践的なツールです。ぜひ、第一歩を踏み出してみてください。