オンライン時代のNPO広報デザイン:伝わるイベント・ウェビナーの作り方
オンラインでの活動が日常的になり、NPOの広報活動においてもオンラインイベントやウェビナー(ウェブセミナー)の開催が増えています。こうしたオンラインの場は、これまでリーチできなかった層に情報を届けたり、地理的な制約を超えて参加者を集めたりするための強力な手段となります。
しかし、オンライン上には多くの情報があふれており、その中で団体のイベントに注目してもらい、内容を理解し、参加を促すためには工夫が必要です。そこで重要な役割を果たすのが「デザイン」です。デザインは単に見栄えを良くするだけでなく、情報を整理し、メッセージを明確に伝え、参加者のエンゲージメントを高めるための強力なツールとなります。
本記事では、デザインの専門知識がないNPO広報担当者の方々に向けて、オンラインイベントやウェビナーを成功に導くためのデザイン活用方法を、具体的な実践ポイントと共にご紹介します。
なぜオンラインイベントにデザインが必要なのか
オンライン空間では、参加者の注意を短時間で引きつける必要があります。数多くの情報の中から団体のイベントを選んでもらうためには、視覚的なアピールが欠かせません。
- 注目を集める: 魅力的なデザインは、スクロールされがちなSNSのタイムラインやウェブサイト上で、イベント情報に目を留めてもらうきっかけになります。
- 信頼性と専門性を伝える: プロフェッショナルなデザインは、団体の活動に対する真剣さや専門性を伝え、参加者に安心感を与えます。
- 情報を明確に伝える: 複雑になりがちなイベント情報を、デザインの力で整理し、伝えたいメッセージを分かりやすく提示できます。いつ、どこで、何を、誰に向けて行うのかといった重要な情報を、参加者が迷うことなく把握できるようになります。
- イベントの世界観を醸成する: イベントのテーマや雰囲気をデザインで表現することで、参加者は事前にどのような体験ができるのかイメージしやすくなり、期待感を持って当日を迎えることができます。
オンラインイベント・ウェビナーでデザインが活躍する具体的なシーン
オンラインイベントの企画から実施、事後フォローまで、様々な場面でデザインは効果を発揮します。
- 告知・集客:
- SNS用バナー/画像: イベント名、日時、登壇者、参加方法といった主要情報を盛り込み、目を引くデザインにします。団体のトンマナ(デザインにおける色やフォント、写真の雰囲気など、組織全体のブランドイメージを構成する要素)と合わせることで、一貫したメッセージを伝えられます。
- ウェブサイト掲載用画像/LP(ランディングページ): イベントの詳細情報(目的、内容、スケジュール、参加費、申込方法など)を分かりやすく構造化し、離脱を防ぐデザインが重要です。申込ボタンの配置や色も、行動を促す上で考慮すべき点です。
- メールマガジン/オンライン広告用画像: 配信リストの特性や広告媒体の仕様に合わせて、メッセージとデザインを最適化します。
- 参加促進・リマインダー:
- リマインダーメールのデザイン: 参加者に送る直前のお知らせメールも、イベントロゴやキービジュアルを使用することで、イベントへの期待感を維持し、参加忘れを防ぐ効果が期待できます。
- 申込完了画面/自動返信メール: 感謝のメッセージと共に、イベント参加に必要な情報を分かりやすく提示します。
- イベント当日:
- オンライン会議ツールの背景画像: 団体のロゴやイベント名を入れ、視覚的な統一感を演出します。
- プレゼンテーションスライド/資料: 文字だけでなく、図やイラスト、写真を効果的に使い、内容を分かりやすく伝えます。スライドのトンマナを統一することも重要です。
- 配信画面のオーバーレイ: 配信ツールの機能を使って、画面の端に団体のロゴやイベント名を常時表示させることで、視聴者に強い印象を与えられます(必須ではありませんが、プロフェッショナルな印象になります)。
- 事後フォロー:
- アンケートフォームのデザイン: 回答しやすいシンプルなデザインで、回収率向上を目指します。
- 報告書/アーカイブ動画サムネイル: イベントの内容が伝わるようなデザインで、関心を持続させ、次回参加や寄付・支援といった次のアクションに繋げます。
非デザイナーでもできる、オンラインイベントデザインの実践ポイント
デザインの専門知識がなくても、いくつかのポイントを押さえることで、効果的なデザインを作成することは可能です。
- 1. 目的とターゲットを明確にする:
- このイベントの最大の目的は何ですか?(認知拡大、参加者獲得、寄付募集、特定課題への関心喚起など)
- どのような人に参加してほしいですか?(年齢層、職業、関心事など)
- 目的とターゲットによって、デザインの方向性(配色、フォント、写真のトーンなど)や盛り込むべき情報、使用する媒体が変わってきます。
- 2. 情報の優先順位を整理する:
- 告知バナーであれば、イベント名、日時、場所(オンラインであること)、参加方法、そして最も伝えたい魅力(例:「〇〇氏登壇!」「参加費無料!」)など、限られたスペースで何を一番伝えたいかを決めます。重要な情報ほど、目立つように配置します。
- デザインの専門用語では「情報のヒエラルキー」と呼ばれます。伝えたい情報の重要度に応じて、文字の大きさや太さ、色の使い方に差をつけることで、読み手が自然と重要な情報から認識できるように誘導します。
- 3. 視覚的な要素を整理し、見やすくする:
- 配色: 使用する色の数は絞ります(多くてもメインカラー、サブカラー、アクセントカラーの3色程度)。団体のブランドカラーがある場合は、それを使用すると統一感が出ます。色のコントラスト(明るい色と暗い色の組み合わせなど)は、特に文字の読みやすさに影響します。背景と文字のコントラストが低いと、情報が伝わりにくくなります。
- フォント: 使用するフォントの種類は1〜2種類に絞ります。見出し用と本文用で使い分ける程度が適切です。装飾的なフォントよりも、ゴシック体や明朝体など、一般的で読みやすいフォントを選ぶと、情報が伝わりやすくなります。
- レイアウトと余白: 文字や画像を詰め込みすぎず、適切な「余白」(何も配置しないスペース)を設けることで、情報が整理され、すっきりとして見やすくなります。情報をグループ化して配置する(関連情報を近くに置く)ことも、理解を助けます。
- 画像/イラストの選定: イベントのテーマに合った、解像度の高い画像やイラストを選びます。無料素材サイトなどを活用できますが、著作権や利用規約を必ず確認してください。(これについては、既存記事の「NPO広報担当者のための、デザイン素材の著作権・利用規約 入門ガイド」をご参照ください。)
- 4. テンプレートやツールを活用する:
- Canvaのようなオンラインデザインツールは、デザイン知識がなくても、豊富なテンプレートを使ってプロフェッショナルなデザインを作成できます。オンラインイベント告知、プレゼン資料、SNSバナーなど、目的に合わせたテンプレートが多く提供されています。文字や画像を置き換えるだけで、品質の高いデザインが手軽に作成可能です。(これについては、既存記事の「デザイン知識ゼロでも大丈夫。NPO広報担当者のためのCanvaを使った簡単デザイン作成術」をご参照ください。)
- PowerPointやGoogle Slidesといったプレゼンテーションツールも、スライド作成だけでなく、簡単なバナーや画像作成に応用できます。団体のロゴやキービジュアルをテンプレートとして保存しておくと便利です。
デザイナーと協働する場合のポイント
より専門的なデザインが必要な場合や、高い品質を求める場合は、デザイナーに依頼することを検討します。オンラインイベントのデザインを依頼する際に、非デザイナーのNPO広報担当者が特に注意すべき点を挙げます。
- オンラインの特性を伝える: 使用するプラットフォーム(Zoom, YouTube Live, イベント用プラットフォームなど)の仕様、必要な画像サイズ(例:SNS広告の規定サイズ、YouTubeサムネイルサイズ)、動画で使用する場合の解像度やアスペクト比(画面の縦横比)など、オンラインならではの技術的な要件を正確に伝えます。
- インタラクティブな要素への配慮: LPなどのウェブ媒体の場合、ボタンの配置やリンクの飛び先など、ユーザーの操作に関わる部分についても希望や意図を共有します。単なる静止画ではなく、ウェブ上でどのように機能してほしいかを伝えます。
- 納品形式の確認: ウェブサイト用、SNS用、印刷用など、用途によって適切なファイル形式(JPG, PNG, SVG, PDFなど)や解像度が異なります。どのような形式で納品してほしいかを事前に確認し、今後の再利用や修正の可能性も考慮して、編集可能な形式(例:IllustratorやPhotoshopの元データ)を含めて依頼するかどうかも検討します。
まとめ:デザインでオンラインイベントをより効果的に
オンラインイベントやウェビナーにおけるデザインは、単なる装飾ではなく、参加者とのコミュニケーションを深め、イベントの目的達成に不可欠な要素です。非デザイナーのNPO広報担当者の方々も、本記事でご紹介した基本的なポイント(目的・ターゲットの明確化、情報の整理、ツールの活用など)を押さえることで、ご自身でできる範囲でデザインの質を高めることができます。
また、外部のデザイナーと協働する際には、オンライン媒体特有の要件を明確に伝えることがスムーズなコミュニケーションと期待する成果を得る鍵となります。
デザインの力を借りて、団体のメッセージがより多くの人に「伝わる」オンラインイベントを実現してください。こうした実践を重ねることが、団体の情報発信力全体の向上に繋がるはずです。